命がけの6日間――戦場からの脱出作戦【現場ルポ】 戦火のウクライナ、広がる兵役逃れの実態

DRAFT DODGING PLAGUES UKRAINE

2025年2月25日(火)10時34分
尾崎孝史(映像制作者、写真家)

3カ月後、新動員法が義務付けた個人情報の更新締切日にマキシムはウクライナ西部カルパティア山脈にいた。ボクダンと縁があった彼は、ボクダンが成し遂げた逃避行について情報を得ていた。そのルートをたどって国境を越えることにしたのだ。

開戦876日目の7月18日、マキシムは祖国から脱出。ルーマニア経由で、ボクダンのアパートに駆け込んだ。彼は今も欧州に潜伏している。


ウクライナ検察は昨年、脱走した6万人の軍人を起訴した。22、23年の脱走者数の倍に上るという。1月には、フランスで訓練中のウクライナ軍第155旅団の兵士約2000人のうち数十人が脱走したと、仏メディアが伝えた。

現役兵士の脱走は、有罪となれば最長12年の懲役刑が科せられる。コサックの血を引く勇猛な戦士はその時どんな心境だったのか。ウクライナで詳細が伝えられることはない。

ウクライナのメディアが、徴兵逃れや兵士の脱走について個別取材をすることがなぜ困難なのか。報道することで厭戦気分や徴兵拒否への共感が広がり、政府から厳しい規制や圧力を受けることを恐れているのだろう。そんななか、闇に葬られようとしている出来事がある。

キーウでの動員活動に関わる事件だ。

24年4月4日、ウクライナ保安庁(SBU)の幹部イリヤ・ビチュクについて、こんなタイトルの記事がウェブで公開された。

「SBUのサイバーセキュリティー部門の責任者の妻が、戦時中に2000万ユーロ以上のマンションを購入」

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