最新記事
ドナルド・トランプ

【超解説対談】第2次トランプ政権のキーワード「単一行政理論」「金ぴか時代」を読み解く

Decoding Trump 2.0

2025年2月12日(水)19時46分

――就任直後だけでも50本以上の大統領令を連発した。中には、アメリカの国是である出生地主義の否定のような政策も含まれている。どこまで本気か?

全部本気です。不法移民の対策に関するもの、出生地主義の問題も結局不法移民対策ですが、メキシコ湾をアメリカ湾にする、グリーンランド購入の話、全部本気です。

――全部本気ですか。

今回、大統領選だけではなく上下両院の連邦議会も赤(共和党勝利)になりました。いわゆるトリプルレッドですが、しかも連邦最高裁の判事も保守派が多数派になっています。

16年の選挙も実はトリプルレッドだったのですが、17年に1期目の政権を始めてみると、議会はトランプ政権がやろうとすることに反対し、最高裁も大統領令を止めるのでやりたいことができなかった。でも今回は共和党自体がトランプ党化している。トランプのやろうとすることに反対する共和党系の議員はほとんどいない。最高裁も自分が決めて選んだ保守派が3人入っているので、おそらくトランプ氏のやろうとすることを止めない。

そのトランプ氏は選挙期間中にスタッフたちと考えて、「ユニタリー・エグゼクティブ・セオリー(単一行政理論)」に基づいて政権運営をしようとしています。これは要するに、三権分立の否定です。

三権には立法と行政と司法がありますが、国民から選ばれている大統領の権限が一番強いんだ、立法も司法も大統領に従うものなんだという理論に基づいた政権運営をしようとしているんです。

大統領令は本来、法的な基盤が必要ですし、憲法にも沿っていなければならないんですが、もうそんなのはどうでもいい、大統領令が一番大事なんだということで進めています。一番わかりやすい例がTikTokです。

すでに上下両院でTikTokをアメリカでは禁止するという法律が通っていて、最高裁も合憲判断を下している。だからサービスを止めなければいけないんですが、トランプ氏は大統領令を出して、75日間猶予を与えると言った。こんな権限はないんです。でも、やっている。

――アメリカの国、あるいはアメリカのシステムを根底から変えようとしている。まさに「トランプ革命」ということか?

三権分立の否定という意味では、革命に近いことをやろうとしています。

――トランプ氏はディール(取引)が好きだが、相手と交渉する中で100%でなくても、いくらか自分の要求を達成できればいいと考えているのでは。

トランプ流の交渉術というのは、一番最初に高い球を投げて、落とすところに落とすということなんですけど、この最初の高い球がブラフだと思われたら、そもそもディールが成立しない。高い球がディールの中で違うところに落ちることはありえますが、最初はもう本気で行く。

――先日のコロンビアとの移民の送還と関税をめぐるやり取りもまさにその一つだった。

そうですね。アメリカの軍用機でコロンビアの不法移民を送り返したのですが、その際手錠を掛けたままだったことにコロンビアが反発して着陸を認めなかった。その瞬間にトランプ氏は関税を50%まで上げ、入国禁止措置を取る、ビザの発給もやめるとし、即座にコロンビアのアメリカ大使館はビザの発給を止めた。

コロンビアはいったん、自分たちも報復関税で強気に出ようとしたが、アメリカの圧力に屈して、全ての条件を受け入れることになりました。トランプ流の交渉が成功した実例です。

――今後、同様の事態はほかの国でも起きうるか。

この不法移民を送り返すという文脈では、今後中南米の国で同じようなことが起こってもおかしくない。

――同じ交渉術を日本、アジアの国あるいはロシアやヨーロッパにも使ってくる?

これはもう、国・地域関係なく。1期目からそうでしたけども、最初に強烈な圧力をかけて、ディールを引き出す。ただトランプ氏のもう一つの特徴は、一旦ディールができたら、その中身に関心がないんです。

うまくディールはできたが、中身は必ずしもアメリカにプラスでなく、相手側にプラスでも、(トランプ氏にとっては)ディールをすることに価値がある。それがわかっていれば、激しい交渉にはなっても、必ずしも全部取られるわけではないとわかります。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

BMWの供給網、中国系半導体ネクスペリア巡る動きで

ワールド

中国の大豆調達に遅れ、ブラジル産高騰で 備蓄放出も

ビジネス

円債2300億円積み増しへ、金利上昇で年度5550

ビジネス

英、「影の船団」対策でロ石油大手2社に制裁 中印企
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中