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荒川河畔の「原住民」(19)

「ホームレスになることが夢だった」日本人男性が、本当にホームレスになった

2025年1月24日(金)06時30分
文・写真:趙海成

征一郎さんはこの明るくてかわいい女の子に魅了された。彼女の話す日本語から、日本人ではないことが分かった。近くに朝鮮学校があることから、たぶん韓国人だろうと思った。

征一郎さんは彼女に愛情を伝える準備を始めた。

赤羽図書館に行って韓国語の教科書を調べて、「ナヌンタンシヌル サランハムニダ」(「私はあなたを愛しています」の意味)という言葉を覚えた。

「ナヌンタンシヌル サランハムニダ」は届かず...

しかし、彼がこの言葉を覚えて告白しようとしているうちに、彼女が日本を離れて帰国してしまったそうだ。彼女が帰ったのはソウルではなく、平壌でもなく、中国の南京だった。彼女は南京の娘だったのだ。

征一郎さんは彼女への恋心を表現するために、韓国語で「ナヌンタンシヌル サランハムニダ」という名の歌詞を書いた。


僕は 赤羽会館の
5階にある
図書館に行って
一所懸命 覚えた
「ナヌンタンシヌル サランハムニダ」
だけど 彼女は 僕が 覚えた
言葉の 国の となりの国の女(ひと)だった
そして 彼女は 祖国に 帰ると言った
この日本の この東京の この赤羽の どこの道を
歩いても 君はいない
ナヌンタンシヌル サランハムニダ
日本語で 言いたくなかった......

征一郎さんはこの歌詞のために曲も作った。ギターを弾きながら歌ってもらったが、感動的な歌のように思う。東京で、中国人の女の子に韓国語で愛情を表現しようとした日本人男性の征一郎さん。滑稽だがロマンティックだと思わないだろうか。

残念ながらこの国際色あるラブストーリーは、幕を開けなかった。女性はなにも知らないうちに母国に帰ったが、男性は非常に残念な気持ちで、ホームレスという道を歩み続けた。


(編集協力:中川弘子)


[筆者]
趙海成(チャオ・ハイチェン)
1982年に北京対外貿易学院(現在の対外経済貿易大学)日本語学科を卒業。1985年に来日し、日本大学芸術学部でテレビ理論を専攻。1988年には日本初の在日中国人向け中国語新聞「留学生新聞」の創刊に携わり、初代編集長を10年間務めた。現在はフリーのライター/カメラマンとして活躍している。著書に『在日中国人33人の それでも私たちが日本を好きな理由』(CCCメディアハウス)、『私たちはこうしてゼロから挑戦した──在日中国人14人の成功物語』(アルファベータブックス)などがある。

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