なぜイエスもモーツァルトも「ロックを歌う」のか?...大ヒット作品からロックの持つ「意味」に迫る

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<「孤独を叫ぶのもロックなら、貴族社会への反抗的態度もロックだ」──歴史ものや伝記作品でロックが果たしている意味とは>
イエス・キリストの最後の7日間を描く《ジーザス・クライスト・スーパースター》に、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの生涯を描く《モーツァルト!》──ミュージカル作品でしばしば見られる「音楽と時代のずれ」。
作品が描く時代には存在しなかった音楽をあえて使う手法はどのような効果を生み出すのか?
オペラや音楽劇の研究を行っている長屋晃一氏の著書『ミュージカルの解剖学』(春秋社)より一部抜粋して紹介する(本記事は第3回)。
※第1回はこちら:ミュージカルは「なぜいきなり歌うのか?」...問いの答えは、意外にもシンプルだった
※第2回はこちら:『レ・ミゼラブル』の楽曲を「歩格」で見てみると...楽譜と歌詞に織り込まれた「キャラクターの心」とは?
音楽と時代がずれている、どころかまったく共通しないように思える、そういうジャンルの作品の最初のひとつは《ジーザス・クライスト・スーパースター》(1971)であることはまちがいない。
ロックを用いたミュージカルをロック・ミュージカルと名づけている場合がある。ロックを用いた作品の初期の例に《バイ・バイ・バーディー》(1960)というミュージカルがある。
これは、スターのロック歌手が徴兵されることになり、お別れのキスをする権利をテレビ番組内で募集する、という内容である。しかしながら、これはロックが流行した時代を舞台としている。それに、全編をロックで通すのではなく、あくまでロック歌手のバーディーが歌う「ショー」の機能のなかにとどまっている。
これに対して、全編のテイストとしてロックを用いたのは、《ヘアー》(1967)であったとされている。この作品ではベトナム戦争の反戦メッセージを伝えるために、ヒッピー文化をあらわす音楽としてロックが用いられた。これもやはり同時代の音楽として用いられている。
これにたいして、《ジーザス・クライスト・スーパースター》はまったく異なる。いうまでもなく、ジーザス、すなわちイエス・キリストが生きていたのは2000年前の世界である。
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