なぜイエスもモーツァルトも「ロックを歌う」のか?...大ヒット作品からロックの持つ「意味」に迫る
そんな時代の音楽をわたしたちは知るよしもないが、作曲家のアンドリュー・ロイド・ウェバーはおよそイエスと結びつきそうもないロックを選んだ。
イエスが弟子たちを連れて歩きながら教えを説き、修業をしていくスタイルが、ヒッピー文化と重なるところがあったからだろう。また、1960年代から70年代にかけて、ジーザス・ムーヴメントなる運動が起きていた。
(中略)
ある時代には存在しえなかった音楽で、ある時代の物語を語る作品、というのは、そこにギャップがあるほど新鮮味をおびてくる。古典的な物語を、クラシックの「音」で語ることはギャップが少ない。クラシックがそもそも古典だからだ。
それに対して、ロックやヒップホップは非常に新しく映る。第2章でとりあげた《ザ・ウィズ》も、『オズの魔法使い』とさして変わらない古典的キャラクターで構成されていた。新しいのは音楽の側であった。R&Bによる音楽は、もはや古びてしまった物語を新鮮な「現代」の物語へと変える。
しかし、物語の時代設定とのギャップでいえば、《ジーザス・クライスト・スーパースター》の翌年、スティーブン・シュワルツが作詞・作曲し、ボブ・フォッシーが振付をした《ピピン(PIPPIN)》(1972)を忘れるわけにはいかない。
この作品ではまず、オープニングで俳優たち、とくに一人の語り手がわたしたち観客にむかって語りかける「ダイアローグ(ナレーション)」の機能をもったナンバー〈マジック・トゥ・ドゥ〉を歌う。舞台と客席がロックのサウンドを介して同じ時間を共有している。