最新記事
トランプ外交

早くも「威嚇外交」、トランプ氏パナマやグリーンランド発言の真意

2024年12月25日(水)10時42分
パナマ運河とコンテナ船

12月23日、 パナマ運河の管理権の返還を主張する考えを示唆し、デンマーク自治領グリーンランドの購入に意欲を示したトランプ米次期大統領の最近の発言は、驚きを持って迎えられた。 写真はパナマ運河を航行するコンテナ船。8月撮影(2024年 ロイター/Enea Lebrun)

パナマ運河の管理権の返還を主張する考えを示唆し、デンマーク自治領グリーンランドの購入に意欲を示したトランプ米次期大統領の最近の発言は、驚きを持って迎えられた。トランプ氏が大統領就任後に常識にとらわれない威嚇的な外交政策を目指すのは間違いなさそうだ。

トランプ氏は来年1月20日の大統領就任に向けて準備を進めており、側近らはウクライナでの戦闘と中東での複数の紛争という2つの外交的危機への対応に備えるようトランプ氏に進言している。しかし、トランプ氏が22日に取り上げたのはパナマ運河とグリーンランド。これに先立ってカナダは「米国の51番目の州になるべきだ」という挑発的な発言もしている。

トランプ氏の姿勢について擁護派は「米国第一主義」を力強く押し進めているに過ぎないと主張。第1次トランプ政権で国家安全保障問題担当の高官だったビクトリア・コーツ氏は「米国にとって良いことは世界にとっても良いことだという考え方だ。トランプ氏はある状況で何が米国にとって利益であるかを冷静に見極める」と指摘する。

トランプ氏は西部アリゾナ州で行った演説で、パナマ運河の通航料は高すぎるし、中南米と結ぶ重要な水路であるパナマ運河の管理権は米国の手に戻るべきだと主張。パナマ運河が「間違った手」に渡ることは許さないとも述べ、中国の影響にさらされる可能性にも警鐘を鳴らした。

トランプ氏の外交政策顧問2人は、トランプ氏は中南米の政府や経済に対する中国の影響力拡大というもっと大きな問題に言及しているのであり、これらは第2次トランプ政権で重点な課題になるとの見方を示した。

中国はパナマ運河を支配、管理していないが、香港に拠点を置くCKハチソン・ホールディングスの子会社が長年にわたり運河のカリブ海側と太平洋側ある2つの港を管理している。

一方、トランプ氏のアプローチは重要な同盟国の米国離れを招く恐れがあると批判する声もある。トランプ氏の公然かつ威圧的な態度のせいで友好国が中国やロシアなど米国と敵対する国の影響圏に入ったり、米国との経済・安全保障協定を結ぶのに消極的になったりするのではないかとの危惧もある。

MAGA<Make America Great Again(米国を再び偉大にする)>というトランプ氏のスローガンが描かれた帽子をかぶったこともあるパナマ市長は今回、トランプ氏の発言に強く反発。「われわれは米国の第51番目の州ではないし、これからもそうなることはない」と突き放した。

第1次トランプ政権で大統領補佐官(国家安全保障担当)を務め、その後トランプ氏とたもとを分かったジョン・ボルトン氏は、パナマ運河の通航料の高さやグリーンランドの戦略的重要性について議論するのは真っ当なことだとしつつ、トランプ氏の「放言」のせいでそうした議論の機会が危うくなっていると懸念を示した。

トランプ氏は第1次政権期に特に欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国を批判したり脅すことをいとわず、軍事防衛費に十分な資金を投入していないと非難した。しかし、大統領就任の数週間前からカナダやパナマのような地理的に近い同盟国を脅しつけるような発言からは、譲歩を引き出すために米国の力をむき出しの道具として使おうとする態度が以前よりも強まっている様子がうかがえる。

ホワイトハウスはコメントを避けた。トランプ氏の政権移行チームもコメント要請に応じなかった。

<グリーンランドへの関心再燃>

トランプ氏は22日、第1期政権で浮上したグリーンランドを米国が購入するというアイデアも再び持ち出した。グリーンランドは気候変動より北極の通商ルートが利用可能になるにつれ、戦略的な重要性が増している。

消息筋3人によると、トランプ氏に近い関係者や政権移行に関わる一部の関係者はこの数週間にグリーンランド取得のシナリオについて非公式に議論していた。1つの可能性として挙がっているのは、グリーンランドがデンマークから完全に独立した場合に「自由連合盟約(COFA)」を締結する手法。グリーンランドの住民の一定数が独立を支持しているという調査結果もある。

米国は現在3つの太平洋諸島国家とCOFAを締結している。その場合、米国との間で非常に高いレベルの経済的統合が実現するが、その国の独立性は維持される。

トランプ氏は第1次政権でもグリーンランドを購入するというアイデアを打ち出した。デンマークは拒否したが、関係者2人によるとトランプ氏はこの構想に関心を持ち続けていた。

トランプ氏は最近、カナダを米国の州にするという考えにも言及している。このアイデアは現実味に乏しいものの、外交問題評議会のエリオット・エイブラムス氏はトランプ氏の「挑発」には戦略的な意図があるとみている。カナダのトルドー首相は支持率が低迷し、辞任を求める声が高まっており、トランプ氏は移民や薬物の流入を減らさない限りカナダからの輸入品に高額の関税を課す方針を示している。

エイブラムス氏は「トランプ氏はトルドー首相に圧力をかけており、これは関税を巡る交渉の一環だろう。いずれメキシコにも同じように圧力をかけるのではないか」と述べた。

トランプ第2次政権で起業家のイーロン・マスク氏とともに「政府効率化省」を率いる実業家のビベック・ラマスワミ氏の顧問、トリシア・マクローリン氏も同じ見解だ。「これはトルドー首相に向けたメッセージだ。『カナダは小さな弟分だ。正当な関税を支払うまで、自分たちを養ってくれている手をかむな』という意味だ」とトランプ氏の発言を読み解いた。



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


東京アメリカンクラブ
一夜だけ、会員制クラブの扉が開いた──東京アメリカンクラブ「バンケットショーケース」で出会う、理想のパーティー
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

世界の投資家なお強気、ポジショニングは市場に逆風=

ワールド

ガザ和平計画の安保理採択、「和平への第一歩」とパレ

ワールド

中国の若年失業率、10月は17.3%に低下

ワールド

ツバル首相が台湾訪問、「特別な関係を大切にしている
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 9
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 10
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中