最新記事
ユダヤ

世界に離散、大富豪も多い...「ユダヤ」とは一体何なのか? 聖書と歴史から読み解けば世界の「今」が見えてくる

THE PROMISED LAND

2024年9月12日(木)15時19分
嶋田英晴(同志社大学一神教学際研究センター共同研究員)

アインシュタイン

ノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインをはじめユダヤ人は優秀な人材を多数輩出している BETTMANN/GETTY IMAGE

そのユダヤのアイデンティティーを維持するため、ユダヤ社会に不可欠の制度が既に古代からラビたちによって明確に意識され定義されていた。タルムードによれば、それは賢者の子弟が住む社会に必要な10の条件とされている。

それは、①ベート・ディーン(3人で構成される法廷)、②慈善のための基金、③ベート・クネセト(シナゴーグ・ユダヤ人会堂)、④公衆浴場、⑤公衆便所、⑥医師、⑦外科医、⑧書記、⑨資格を有する家畜屠殺人、⑩子供の教師、である。


各地のこうした共同体から成り立つユダヤ社会のユダヤ人は、ササン朝ペルシアや旧ローマ帝国領内などで農業や商業を営んでいたが、7世紀以降両帝国の版図の大半がイスラム勢力によって征服された。そのため当時世界のユダヤ人口の90%以上がイスラム世界で居住することとなった。

広大なイスラム世界では、非ムスリムはイスラム法の優越を認め、人頭税と土地税を支払えば、生命・財産・信仰の自由と共同体ごとの自治が保証された。

このためユダヤ人はイスラムによる支配を歓迎し、やがてその多くが離農して都市居住者となり、商業、手工業や金融業をはじめとするさまざまな職業に従事するようになった。

イスラムは、宗教、宗派や民族などの違いを超えてそれぞれの長所を積極的に活用したため、ユダヤ人も大いに活躍してイスラム世界の繁栄に貢献した。

ディアスポラのユダヤ社会がいかにして横のつながりを維持していたかについてはさまざまな要因が考えられるが、イスラム世界に関しては以下のとおりだ。

イラクとパレスチナ(ティベリア)に存在したユダヤ教学の学塾(イェシヴァ)の塾長(ガオン)の指導の下に、ラビたちが各地の共同体から寄せられる律法に関する問い合わせに対して、宗教規範に即した回答を与えていた。

その結果、それまでイラクやパレスチナの学塾の周辺のみで通用していたラビ・ユダヤ教のタルムードの伝統が遠隔地の共同体にまで次第に浸透していき、イラクやパレスチナを中心とした各地の共同体相互の交流や精神的絆が大いに促進された。

このことが各地のユダヤ人がさまざまな活動を行う際の強力なネットワークとして機能した。

一方ヨーロッパでは、特に11世紀末から始まった十字軍派遣頃から、『新約聖書』でキリストを裏切ったユダへの憎悪になぞらえる形で、異教徒討伐の名の下にユダヤ人迫害が激化し、ライン川流域のユダヤ共同体などが襲撃された。

またこの頃からユダヤ人は全ての職業組合から排除されるようになり、キリスト教徒に禁止されていた金融業に従事するようになった。ペストの流行や儀式殺人の疑いも迫害の原因となった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノボとヒムズが和解、肥満症調剤配合薬の特許侵害訴訟

ワールド

米、石油備蓄の協調放出検討 他の選択肢も=エネルギ

ワールド

米の要請で和平協議延期、新たな協議に応じる用意=ゼ

ワールド

トランプ氏、イラン最高指導者へのモジタバ師選出に「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目のやり場に困る」密着ウェア姿がネットを席巻
  • 4
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 5
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    プーチンに迫る9月総選挙の暗雲
  • 10
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中