最新記事
米軍

イスラエル支援で米軍は能力の限界、太平洋の守りが手薄に

The Already Stretched U.S. Military Prepares to Defend Israel

2024年8月7日(水)18時30分
ジャック・デッチ(フォーリン・ポリシー誌記者)
空母エイブラハム・リンカーン打撃群

オースティン米国防長官は空母エイブラハム・リンカーン打撃群を中東に向かわせた(写真は2022年2月)  U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Lake Fultz via ABACAPRESS.COM

<空母エイブラハム・リンカーン打撃群を太平洋から中東に派遣するなど、イランの報復攻撃からイスラエルを守るため米軍は無理を強いられ、中国を抑止する力を奪われている>

米国防総省はまず、任務が完了して中東を離れる空母セオドア・ルーズベルト打撃群の代わりとして、空母エイブラハム・リンカーン打撃群を太平洋から中東に派遣することを決定した。

【動画】戦後初の日本空母「いずも」をドローン撮影したとされる動画が再浮上──海上自衛隊は本物か確認中

さらに、弾道ミサイル防衛能力を持つ巡洋艦と駆逐艦を中東に追加派遣した。ロイド・オースティン国防長官は、中東にさらなる戦闘機部隊の派遣と陸上弾道ミサイル防衛の強化を命じた。

バイデン政権は何日も前から、イランの新たな攻撃に対してイスラエルの安全を保証することはできないと警告していたが、米政府は緩やかなミサイル防衛体制を整えていた。8月5日の昼過ぎには、米中央軍のマイケル・クリラ司令官がイスラエルを訪れ、防空計画を逐一詳細に検討した。

ジョー・バイデン米大統領は、4月にイランの攻撃に対するイスラエルの防衛で協力したヨルダンのアブドラ2世国王と電話会談を行った。

米軍がインド太平洋地域への地上軍と艦船の増派を優先すべき時に、イスラエルを防衛する必要性から、重要な戦力が中東に戻された。すでに能力の限界にきていた米艦船乗組員、戦闘機部隊、防空部隊は、さらに多くの場所をカバーしなければならなくなり、身動きが取れなくなっている。

「アメリカは、3つの戦域に同時に対応できる軍隊を作ってきたわけではない」と、民主主義防衛財団のマーク・モンゴメリー上級研究員は述べた。

重要な地域への対応不足

米軍は貴重な戦力を重要な地域から別の地域に移動させようとしている。インド太平洋に配備するはずの空母リンカーンは湾岸に向かっている。

イエメンのフーシ派との戦闘のために紅海での任務が長引いていた空母ドワイト・D・アイゼンハワーはバージニア州ノーフォークに戻ったばかりだ。

こうしたやり方を続ける限り、米軍はインド太平洋地域に十分な戦力を配備することが難しくなる可能性がある。「米軍は、インド太平洋地域において望む通りの規模の戦力を十分に活用することができなくなるかもしれない」と、かつて米第5艦隊司令官を務めたジョン・ミラー退役米海軍副提督は語った。

だがミラーは、米軍はその戦力を迅速に移動させることができると言う。 「空軍の航空部隊は太平洋と中東の間で移動させることができる。艦隊は、太平洋や大西洋と中東との間を、それほど困難なく短期間で移動させることもできる」。

とはいえ「これは非常にコストがかかる仕事であり、いったん配備した部隊を置き換えるのは困難で、時間がかかる」とミラーは言う。「決して攻撃に出ないハーフコートラクロスのような防御するだけのゲームを続けることはできない」

イランがイスラエルに報復攻撃を仕掛ける可能性は日毎に高まっているように見える。4日には、アントニー・ブリンケン米国務長官が、イランの攻撃が24時間以内に開始される可能性があるとG7首脳に警告したことが報じられた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

エルサルバドルへの誤送還問題、トランプ氏「協議して

ワールド

米民間セクター代表団、グリーンランドを今週訪問 投

ビジネス

伊プラダ第1四半期売上高は予想超え、ミュウミュウ部

ワールド

ロシア、貿易戦争想定の経済予測を初公表 25年成長
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中