最新記事
格差社会

女性の無償労働「シャドウワーク」で日本は支えられている

2024年7月31日(水)15時15分
舞田敏彦(教育社会学者)
家事労働

家事や家族のケアの労働に対価が払われることはない pexels

<低賃金のエッセンシャルワーカー、さらに無償のシャドウワーカーがいなければ日本社会は成り立たない>

働く人は、いくつかの観点から分離できる。まずは性別だ。時代と共に働く女性は増え、現在では有業者の男女比はほぼ半々だ。しかし性別構成が著しく偏った職業が多い、同じ仕事なのに男女で給与が違うといった、いわゆる「ジェンダー格差」が問題になっている。

その次は従業地位だ。会社や官庁に雇われて働く雇用労働者は、正規雇用と非正規雇用に分かれ、両者の間では「身分格差」と言っていいほど待遇に違いがある。今では働く人の3人に1人は非正規雇用で、日本の快適な暮らしは非正規雇用者の犠牲の上に成り立っているのではないかと、海外の人には思われている。


あと1つは、年収階層による区分だ。「安いニッポン」と言われて久しいが、労働者の稼ぎは年々下がる一方で、最近では約半数が年収300万円未満のワーキングプアだ。これは、雇用の非正規化の影響が大きい。また稼ぎ人とそうでない人の格差も開きつつある。前に筆者が試算したところによると、日本の労働者の収入ジニ係数は米国よりも大きい。

この3つの観点を組み合わせて、日本の有業者(約6100万人)をグループ分けし、人数が多い順に抽出してみると、最も多いのは年収100万円未満の女性非正規雇用者(579万人)、その次は年収100万円台の女性非正規雇用者(540万人)となる。日本で働く人の2割弱、すなわち5人に1人が年収200万円未満の非正規女性ということだ。

産業も絡めてみると、日本社会がどういう人で支えられているかがリアルに見えてくる。<表1>は、人数が多い上位20位を抽出したものだ。

newsweekjp_20240731050921.png

この表に載せた20のグループだけで、有業者全体の27%(4人に1人)に相当する。上位を見ると、女性、非正規、産業では卸売・小売、医療・福祉が多く、年収は押しなべて低い。

今の日本社会は、安い女性エッセンシャルワーカーで支えられているのが分かる。介護労働者の不遇に象徴されるように、辛い思いをしながら働いている人が多いだろう。社会を支える土台が、いつ崩れるか分からない。待遇の改善が急務だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中