最新記事
地政学

ロシア「北朝鮮シフト」鮮明、北東アジアの地政学どう変わる

2024年6月20日(木)11時39分
プーチン大統領と金正恩朝鮮労働党総書記

6月19日、 プーチン大統領が24年ぶりに訪朝し、金正恩朝鮮労働党総書記との間で軍事連携を含む「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名したことは、21世紀に入って爆発を伴う核実験を唯一実施した北朝鮮との関係強化に動くロシアの姿勢を浮き彫りにした。写真は同日、平壌で文書に署名し握手するプーチン大統領と金総書記。ロ大統領府提供(2024年 ロイター)

プーチン大統領が24年ぶりに訪朝し、金正恩朝鮮労働党総書記との間で軍事連携を含む「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名したことは、21世紀に入って爆発を伴う核実験を唯一実施した北朝鮮との関係強化に動くロシアの姿勢を浮き彫りにした。

プーチン氏は、国連の北朝鮮制裁を20年近く支持してきた方針を捨て、北朝鮮にはっきりと肩入れする方針に転じた形だ。

ロシアの極東連邦大学のアルトヨム・ルーキン氏は、これは北東アジア地域の全体的な戦略的状況を劇的に変化させる可能性があると指摘。「ロシアが北朝鮮に安全保障を提供するのであれば、北朝鮮はロシアの東欧における主要同盟国であるベラルーシと似た立場になる。米国を中心とする北東アジアの同盟体制に対するあからさまな挑戦であり、当然ながら日本と韓国にとっても大きな問題になる」と解説した。

北朝鮮は中国と防衛条約を結んでいるが、過去1年でロシアと進めてきたような積極的な軍事協力を行っているわけではない。

中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国で、ロシアとの結びつきも強まるばかりとなっている。ただ中国は今のところ、国際関係にさらなる緊張をもたらしかねない北朝鮮、ロシアとの3カ国による協調の枠組みに踏み込むことは慎重に避けている。

<ウクライナ侵攻に起因>

ロシアが金総書記に、包括的戦略パートナーシップ条約に加えてリムジンや新たな宇宙船打ち上げ基地見学ツアーなどの贈り物までして接近を図っていることに、米国やアジアにおけるその同盟国は警戒感を強めている。

こうした国の情報機関は、ロシアがウクライナの戦場で使う弾薬を北朝鮮から調達する見返りに、どこまでミサイルや核関連技術を提供するのか見極めようとしているところだ。

キングス・カレッジ(ロンドン)のハモン・パチェコ・パルド教授(国際関係論)は「プーチン氏が24年ぶりに訪朝したのは、ロシアが北朝鮮から何を得られるかという話であり、これはウクライナの戦争に起因する」と話す。ロシアは最新技術こそ渡さないものの、北朝鮮のミサイル・核開発プログラム向けに一部の専門知識を提供するだろうとみる。

「対北朝鮮関係での大きな変化だと思う。ウクライナ侵攻がなければ、ロシアがそうした技術の共有をやむを得ないと感じることはなかっただろう」と、同教授は語る。

ロイターが取材した4人の外交官も、ロシアは北朝鮮との関係を深めるが、金総書記と共有する技術については極めて選別的になるとの見通しを示した。

ソウルに駐在する別の西側外交官は、ロシアと北朝鮮の接近ぶりを受け、欧州は日本および韓国とのつながり強化が焦眉の急となり、国際的な同盟の構図が一段と塗り変わるかもしれないと話した。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ビジネス

米シカゴ連銀総裁、前倒しの過度の利下げに「不安」 

ワールド

IAEA、イランに濃縮ウラン巡る報告求める決議採択

ワールド

ゼレンスキー氏、米陸軍長官と和平案を協議 「共に取
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中