「東と西、南と北の架け橋へ」地政学上の鍵を握るサウジアラビアが目指す「サウジ・ファースト」の論理

ARABIAN MIGHT

2024年6月21日(金)14時33分
トム・オコナー(本誌中東担当)

newsweekjp_20240620021036.jpg

2022年7月にバイデン(左)はサウジアラビアを訪問し、ムハンマド皇太子(右)と会談 MANDEL NGANーPOOLーREUTERS

いまバイデンは、ガザ戦争に関連してサウジアラビアとの関係修復を再び試みている。

ホワイトハウスが目指すのは、いわゆる「メガディール」をまとめること。具体的には、アメリカとサウジアラビアの安全保障協力を強化する、イスラエルとサウジアラビアが国交を正常化する、そしてパレスチナ国家の樹立に向けた道筋をつくる、といったものだ。

しかし、サウジアラビアはアメリカとの交渉に強い姿勢で臨んでいる。自国の地政学的な影響力が強まっている状況を生かして、国益を最大化しようとしているのだ。

OPECプラス、アラブ連盟、イスラム協力機構(OIC)の有力メンバーであり、G20諸国の中でも屈指のペースで経済成長を遂げているサウジアラビアは、そうした戦略を追求しやすい立場にある。

ほかには、ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコといった国々も同様の外交姿勢を実践している。これらの国々は、国際政治でどの陣営と連携するかが流動的で、地政学上の勢力図の大きなカギを握っている。

米シンクタンク「ジャーマン・マーシャルファンド(GMF)」は、こうした国々を「グローバルなスイング・ステート」と呼ぶ(編集部注:スイング・ステートとは、米大統領選で民主党と共和党のどちらが制するかが流動的な激戦州のこと)。

「このような国々にとって世界秩序がより不安定に、より複雑に、より多極化するなかで、連携する国を増やすことは理にかなった選択」だと、GMFの研究員であるクリスティナ・カウシュは本誌に語っている。

「サウジアラビア政府は、例えて言えば結婚ではなく、複数の相手と流動的な関係を育むことこそ、世界の不安定化がもたらすダメージを抑え、自国の強みを最大限生かすための方策だと考えている」

アメリカに欠けている視点

サウジアラビアにとっては、アメリカ、中国、ロシアと等しく良好な関係を築くことが大切だ。アメリカは今も安全保障上の最も重要なパートナーだが、中国は最大の貿易相手国であり、エネルギー資源の最大の輸出先でもある。

一方、ロシアと強力な関係を維持することも、OPECプラスを通じて原油の生産量と相場をコントロールする上で不可欠だ。

「その結果、(サウジアラビアは)常に曖昧な立場を取ることになり、どうしてもアメリカ政府との間で摩擦が生じる」と、カウシュは言う。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

UAE、イエメンから部隊撤収へ 分離派巡りサウジと

ビジネス

養命酒、非公開化巡る米KKRへの優先交渉権失効 筆

ビジネス

アングル:米株市場は「個人投資家の黄金時代」に、資

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック小幅続落、メタが高
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中