最新記事
ウクライナ戦争

ウクライナ戦争開戦から2年、NATO軍の元最高司令官が語る「敗北のシナリオ」

NO MORE AID, PUTIN WINS

2024年2月20日(火)19時18分
ブレンダン・コール
ウクライナ支援の打ち切りは「悪夢の始まり」か?

バフムートの戦いで経験豊富な兵士を失ったことはウクライナに痛手だった(昨年11月) KOSTYA LIBEROVーLIBKOS/GETTY IMAGES

<支援の打ち切りは「悪夢の始まり」か?このまま西側が支援を出し渋れば、プーチンの勝利を招くだけでなく、今後数十年の欧州の安全保障地図が塗り替わる>

NATO欧州連合軍の元最高司令官で元米空軍司令官でもあるフィリップ・ブリードラブは、ウクライナ戦争の今後について3つのシナリオを描いている。

そのうち2つの結末は、ロシアの勝利だ。

「今と違う手を打たなければ、ウクライナは敗れる。ロシアは兵力が多く、軍にも余力がある」と、ブリードラブは本誌に語った。

「西側諸国に見捨てられても、ウクライナは勇敢に戦うだろう。しかし、さらに数万人の命が失われ、最終的にはロシアに全土を制圧されて、再びロシアの属国になる」

2013~16年にNATO軍司令官を務め、ロシアによる14年のクリミア併合の影響を目の当たりにしたブリードラブは、その一方で一筋の希望もあると指摘する。

「西側がウクライナの勝利に必要なものを供与すれば、ウクライナはこの戦争に勝つ。西側の政策担当者らが望むどおりの形で、戦いは終わりを迎えるだろう」

西側が武器支援拡大を一向に決断しないことに業を煮やしたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との戦争はウクライナだけのものではないと訴えた。

「私たちが一丸となってとどめを刺すまで、彼(プーチン)は戦いをやめないだろう」と、ゼレンスキーは語った。

「これはアメリカの戦いだ」

昨年12月に米議会では、614億ドルの対ウクライナ支援を含む安全保障の予算案成立が共和党の手で阻止されていた。

年末年始の米議会の閉会中、ウクライナはロシアからミサイルと無人機による攻撃を5日間で500回以上受け、45人が死亡した。

米大統領選挙の共和党予備選では、ドナルド・トランプ前大統領をはじめとする候補者がウクライナ支援の打ち切りを訴えて、支持を集めている。

開戦以来のアメリカの支援総額は790億ドルを超え、世界最高だ。

米国家安全保障会議(NSC)の元上級部長で、オバマ政権時代に国務次官補を務めたトム・マリナウスキーは、共和党の妨害によってプーチンが勝つ可能性は「かなり高くなった」と予測する。

「下院の共和党指導部は、ロシアの勝利を後押ししたと非難されてもいいのか」と、マリナウスキーは言う。

「議会で先送りになっても支障がない物事は多い。たとえある日に敗れても、それを乗り越え、後日に再び戦えればいい。しかし、今のウクライナには後日まで待つ余裕がない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中