最新記事
パキスタン

パキスタン「総選挙後の混乱、野党系が最多」は何を意味するか? 経済も治安も危険水域の国の行方

2024年2月13日(火)17時05分
アブドゥル・バシト(南洋理工大学〔シンガポール〕研究員)
パキスタン シャリフ元首相

北部の都市ラホールの投票所で投票する元首相のシャリフ(2月8日) NAVESH CHITRAKARーREUTERS

<これから連立政権が発足することになるが、軍の影響力がいっそう強くなるだろう。巨額の対外債務、深刻なインフレ、武装勢力の攻撃......。パキスタンは今、岐路に立たされている>

2月8日の総選挙をめぐる混乱と疑念の末に、パキスタンに弱い連立政権が誕生することになりそうだ。

開票が始まると、当初は野党のパキスタン正義運動(PTI)系の陣営が他陣営に大きなリードを保っていたが、選挙管理委員会が集計作業を一時停止。15時間後に結果発表が再開されると、得票状況は大きく変わっていた。

本稿執筆時点でまだ全ての議席が確定していないが、残り議席の動向に関係なく、PTI系が最大勢力になることは動かない。しかし、選挙管理委員会の集計停止を境に、PTI系のリードが大幅に縮小した。パキスタンの政治に強い影響力を振るってきた軍による不正を疑う声が強まっている。

そもそもPTIは、選挙戦に平等な条件で臨むことを許されなかった。創設者のカーン元首相は昨年8月以降収監されていて、党の活動家や支持者の多くも逮捕された。今回の選挙でも同党の候補者は無所属候補として立候補することを余儀なくされた。

それでも、事前の予想をはね返してPTI系の候補者が多くの議席を獲得した。有権者は軍の介入にはっきりとノーを突き付けたのである。

もしこうした有権者の強い意志が覆されれば、パキスタンの政治的混乱はさらに続くだろう。これまでの歴史上、5年の任期を全うした首相は1人もいない。

暫定内閣の下で実施された今回の選挙では、PTI系、シャリフ元首相率いるパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)、そしてパキスタン人民党(PPP)という3大勢力は、いずれも単独では過半数の議席を獲得できなかった。その結果、連立政権が発足することになるが、政権の基盤は弱く、軍の影響力がいっそう強くなりそうだ。

しかし、いまパキスタンが置かれている経済的苦境を脱するには、国民に支持された強力な政府が必要とされる。

まず4月には、IMF(国際通貨基金)の融資プログラムが終了する(現在、IMFの30億ドルの融資により、パキスタンは債務不履行を回避できている)。3月には、新しい融資プログラムに向けた交渉を開始しなくてはならない。5月には、補助金の削減や税負担の増加を盛り込んだ新予算も打ち出す必要がある。

現在、パキスタンは巨額の対外債務を抱えている。総額2600億ドルの債務のうち、1160億ドルを対外債務が占めているのだ。

経営
「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑むウェルビーイング経営
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジアが攻撃停止で合意、トランプ氏が両国

ビジネス

FRB現行策で物価目標達成可能、労働市場が主要懸念

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設

ワールド

EU、来年7月から少額小包に関税3ユーロ賦課 中国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中