最新記事
ロシア経済

知的人材と資本の流出が止まらない...すでに「経済戦争」では敗戦状態のロシア【最新経済データ】

Putin's Cratering Economy

2024年1月10日(水)13時55分
ジェフリー・ソネンフェルド(エール大学経営大学院教授)、スティーブン・ティエン(同大学チーフエグゼクティブ・リーダーシップ研究所研究責任者)
プーチン大統領

ウクライナ侵攻後、プーチンが導入した資本規制でルーブルの取引高が激減し、資本流出が進むなど、ロシア経済は急降下している DMITRY ASTAKHOVーPOOLーSPUTNIKーREUTERS

<ウクライナの苦戦ばかりが伝えられるが、外国企業が撤退し、人材も流出、ルーブルは無価値同然のロシア。懐事情が厳しい点を見落としてはならない>

戦況は膠着状態で、政治の機能不全のせいで欧米の支援は揺らぎ、資源や注目は中東で新たに勃発した戦争のほうに転換──。今やウクライナは、2022年2月のロシア軍の侵攻以来、おそらく最も厳しい状況に直面している。

だからといって、得しているのはウクライナの敵、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領だという欧米メディアの皮肉な見方は飛躍しすぎだ。

昨年12月には、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のコラムニストが「今年の勝者」の1人にプーチンを選出。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、多国籍企業1000社以上がロシアから撤退したことが逆効果になり、プーチンと取り巻きの富が膨らんでいると示唆した。

だが、プーチンは万事順調、と思い込む罠に陥ってはならない。プーチンに圧力をかける効果的な手段を捨て去ることも許されない。

実際には、あらゆる証拠が示すように、企業の「ロシア脱出」は数々の損失をもたらしている。ロシア経済が巨大なツケを払っていることは、経済データを見れば明らかだ。

譲渡された資産が無価値同然なら、ロシアもプーチン一味も得はしない。ロシアで事業展開するアジア企業や欧米企業の一部資産は没収され、大半の企業はロシアを離れるため進んで巨額の損失を計上した。だが、こうした企業の行為は好感され、時価総額が急増する結果になっている。

石油大手の米エクソンモービルや英BPの撤退で、ロシア側は資源探査に不可欠な技術を失っている。

WSJは昨年3月、現地のジャーナリストの記事として、大規模な供給崩壊でロシアの各部門の工場が休業に追い込まれていると報道。勇敢にも真実を伝えた記者の1人は当局に逮捕され、現在も拘束されている。

本当のところ、ロシアはどうなっているのか。筆者らが信頼性を確認した経済データから検証してみると──。

◇ ◇ ◇


■人材流出

ウクライナ侵攻直後の数カ月間、推計50万人がロシアを離れた。その多くが、ロシアにとって必要不可欠な高学歴の熟練労働者だ。

侵攻から2年近くたつ今、離脱者は少なくとも100万人に膨れ上がっている。試算によれば、この異例の人材大量流出によって、ロシアは技術系労働力の1割を失った。

試写会
『クィア/Queer』 ニューズウィーク日本版独占試写会 45名様ご招待
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

マスク氏、FRBへDOGEチーム派遣を検討=報道

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中