最新記事
現代史

ハマスはイスラエルに「必要」な存在だった...パレスチナ「75年間の歴史」で、紛争を基礎から理解する

Vengeance Is Not a Policy

2023年12月21日(木)17時13分
イアン・ラスティック(ペンシルベニア大学名誉教授〔中東政治〕)

231128P22_GDS_04v2.jpg

イスラエルの攻撃後、行方不明者を探して途方に暮れるガザの男性(今年11月1日) MOHAMMED AL-MASRIーREUTERS

イスラエルは、ガザ(あるいはパレスチナ)を国家として承認しているわけではない。その住民を統治する正当な権力者として、ハマスを承認しているわけでもない。

この攻撃に対するイスラエルの最初の対応は、ガザへの電気、食料、医薬品、水などの供給を遮断するというものだった。どんな国も他国にそのようなことはできないが、自らが取り囲んで支配している領域に対してはできる。

イスラエルにガザは必要か

ガザを「超過密なイスラエルの監獄」とする見方をとっぴだと決め付ける前に、イスラエルの実際の刑務所がどうなっているかを考えてみよう。

収容者の大半がパレスチナ人である刑務所では、看守ではなくパレスチナの囚人組織が仕切っている。イスラエルの刑事司法制度に詳しい人なら、これが事実だと知っている。ハマスが内政を支配するガザ地区として知られる約365平方キロの監獄も、同様にイスラエル国内にある。

脱獄囚がどれだけ残忍になれるのか。刑務所の反乱がいかに冷酷に鎮圧され、結果として暴力に無関係な多くの受刑者がいかに苦しむのか。それらは誰もが知っている。私たちは前者を既に目撃し、いま後者を目撃している。

しかし刑務所の反乱は、そこがいかに非効率的に、残酷に、そして非生産的に運営されているかを示す生々しい証拠でもある。反乱は常にではないが、しばしば刑務所改革や、場合によっては刑務所の閉鎖につながる。

「ガザ監獄」の場合、これが必要だ。イスラエルは決断を迫られている。イスラエルにガザが不要ならば国連に引き継がせ、イスラエルからの賠償金、湾岸諸国の資金、国際的な安全保障支援により、ガザが実現し得る最善の未来に向けて援助すべきだ。

イスラエルがガザを維持したいなら、20年1月にドナルド・トランプ米大統領(当時)が提唱したパレスチナ人のための計画の中にあるとおり(無視されがちな部分だが)、イスラエル南部ネゲブ砂漠の居住者の少ない一帯を、そこに祖先の家があった数十万人のガザ人に開放すべきだ。そして統治国であるイスラエルの市民生活に参加する権利を、平等に与える必要がある。

いま地中海とヨルダン川の間には、ユダヤ人よりもアラブ人のほうが多く住んでいる。彼らがどのように共生するか、そして共生することが最終的に彼らの共有する国家の名前と性格にとって何を意味するかは、非常に難しい問題だ。

それでもこれらは、いま抱えている問題より、そして、このまま大惨事という恐ろしい結果だけに対処し、その原因に対処しないことで将来抱えることになる問題よりはましだ。

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペインの極右政党ボックス、欧州議会選へ向け大規模

ワールド

イランのライシ大統領と外相が死亡と当局者、ヘリ墜落

ビジネス

欧州当局、モデルナのコロナワクチン特許有効と判断 

ワールド

頼清徳氏、台湾新総統に就任 中国メディアは「挑発的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中