最新記事
ウクライナ情勢

ウクライナ軍、「数週間内に反転攻勢のブレイクスルーがある」──元米欧州軍司令官

Ukraine Breakthrough Could Come in 'Weeks,' Former U.S. General Says

2023年8月31日(木)19時56分
デービッド・ブレナン

米国防総省内では、東部から南部まで前線沿いの複数地点に兵力を分散して攻撃を始めたウクライナ軍の戦術が間違いだったという批判も聞かれる。ウクライナ軍は、激戦地となったドネツク州のバフムト、ザポリージャ州とドネツク州にまたがるウロジャインとスタロマイオルスケ地域、ザポリージャ州のロボティネ村などで前線突破を試みてきた。

大きな進展もあった。ウクライナ政府の発表によると8月28日、ウクライナ軍はロボティネ村の奪還に成功した。ロシアの地雷原を超え、さらに南の要衝トクマクへに進軍する突破口を開いたのだ。

こうした攻撃はいずれも一定の戦果を挙げてきたが、いまだに決定的な突破口は切り開かれていない。反転攻勢の究極的な目標は、ウクライナ南部のロシアの支配地域に延びる、クリミア半島とロシア西部を結ぶ「陸の回廊」を断ち切ることだ。作戦の進捗が遅れているため、秋までにこの目標を達成することは望めないとの悲観論も浮上している。

成功率を上げるため、攻撃地点を1つに絞り、兵力と兵器をそこに集中するよう、米高官がウクライナ政府に求めたと、ニューヨーク・タイムズが今月伝えた。ホッジスによると、こうした提案は「全くもってナンセンス」だ。「ペンタゴンの批判には心底うんざりしている」

第2次世界大戦中にドワイト・アイゼンハワー将軍がノルマンディー上陸作戦を命じたときに、「ペンタゴンの『天才戦術家たち』がいなかったのは幸いだった」と、ホッジスは皮肉る。

公式には理解を示す米政府

ホッジスはさらに、ウクライナ軍が反転攻勢の開始後2カ月を掛けて、ロシア軍の航空戦力に決定的なダメージを与えた意義を強調する。

「これは侮れない。ウクライナ軍は地上部隊を空から支援できないからだ。われわれなら制空権を確保せずに兵士を前線に送り出したりはしない」が、ウクライナには今のところ他に選択肢がない。

ホッジスは1991年の湾岸戦争を勝利に導いた「砂漠の嵐作戦」を例に挙げ、戦いにおいて航空戦力がいかに重要か想像してほしいと述べた。

「米軍主導の多国籍軍は6週間連続で10万回もの空爆でイラク軍をたたいてから、有名な『左フック作戦』(前線の後方のサウジアラビアからイラク領内を攻撃)と4日間にわたる地上戦を展開したのだ」

米国防総省高官や米軍関係者はオフレコではいら立ちを見せているが、公式発言ではウクライナに理解を示している。

マーク・ミリー米統合参謀本部議長は「計画より時間が掛かっている」としながらも、「ウクライナ軍は限定的ながら前進している」と認めた。

アメリカは「紛争が膠着状態に陥っているとは思っていない」と、ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は述べ、こう続けた。「この反転攻勢を通じて領土を奪還するウクライナの試みを、アメリカは引き続き支持する。ウクライナは秩序立った組織的なやり方で領土を取り戻そうとしていると、われわれは考えている」

米国防総省のサブリナ・シン副報道官は8月29日の記者会見で、反転攻勢の進捗について、ウクライナは「引き続きじわじわと前進しており、今後も何カ月かこの戦いを続けるだろう」との見方を示した。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中