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路上売春に行く私を、彼氏は笑顔で送り出してくれ、帰ればセックスしてくれるから「私はそれで幸せ」。なぜ彼女は...

2023年8月14日(月)19時10分
印南敦史(作家、書評家)

街娼をする女性を美化する装置として、ホストクラブが機能している

また、非常に深刻なのはホストの存在だ。ホストクラブにはシャンパンなどを注文して高額になった飲食の代金を、返済期日を決めていったん猶予してもらい、後から支払う「売り掛け」というシステムがある。

 
 
 
 
 

銀座の高級クラブなどでは昔からあった、企業が接待に使った毎月の支払いをまとめて後払いするためのサービス。だがホストクラブではそれが、個人の女性客に背負わせる形に変化した。そしてそれが、ホストにハマって多額の借金をつくり、路上で身を粉にして働く「ホス狂い」と呼ばれる女性を生むことになった。


「ホス狂い」とは、文字通りホストに狂ってしまった――ハマってしまった女性のことを指す。"狂う"=常軌を逸するまでに、となるわけで、かわいそうな存在を連想しがちだが――いや、実際の状況はどう見積もっても不幸であるとしても――いまや悲壮感などいっさい見せず「私はホス狂いである」と自称して、ホス狂いになった経緯や担当に使った金額の誇示やその矜持、愛情、憎しみ、不満、不安などの内情をSNSなどでひけらかし、共感を得たり優越感に浸るなどして承認欲求を満たすのがトレンドだ。(171~172ページより)

高木氏が取材をした紗希という20歳の女性もまた、ホストに貢いでいる女性のひとりだ。知り合った当時は休職中だったホストは、後に彼女のマンションに転がり込み、ヒモ状態になったという。

当初は郊外のソープで働いていたが、稼ぎが少なくなってきたとき、その彼氏から「ハイジアって場所に立つと稼げるからやってみれば?」と提案されたのだそうだ。一般的な常識では考えられないような話だ。高木氏も同じ気持ちであったようで、踏み込んで話を聞いている。


――彼女に立ちんぼさせるなんてそのホストの彼氏、けっこうえげつないと思うよ。
「そうかもね。でも彼氏は、毎日笑顔で送り出してくれて、帰ればセックスしてくれるから、私はそれで幸せです」

 自分の彼女が見ず知らずの男に抱かれ、それで得たカネで自分は暮らす、そんな状況を彼氏は許せるものなのか。一方、紗希は彼氏のことを信じきっているのか、それとも騙されるのではと疑いつつ、彼氏を信じる自分に酔っているのか。しかし沙希は、なんど質問を重ねても「私はそれで幸せ」と言うにとどまった。(209~210ページより)

沙希の持論はまったく腑に落ちないものだったと高木氏は記しているが、まったく同感だ。売り掛けを理由に街娼をする女性を美化する装置として、ホストクラブが機能していると、氏は形容する。


 最近よく聞く『ホス狂い』という言葉の裏で、若くして春を売る街娼たちが量産されているのである。さらに取材を進めてみても、大久保病院側に立つのはホストやメンコン、メン地下にハマる女の子が大勢を占めたのである。しかしホストたちに出会わなければ、街娼という営みには到達しえなかったはずだ。(210ページより)

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