最新記事
中国経済

中国の出稼ぎ労働者「農民工」のスト多発でも、習政権には単なる「頭痛のタネ」程度...その理由は?

China’s Restless Workers

2023年7月5日(水)12時53分
ニール・トンプソン(地政学リスクアナリスト)
フォックスコンの工場

鄭州にあるフォックスコンの工場。同社のアップルの受託生産工場の大規模ストは世界を驚かせた VCG/GETTY IMAGES

<世界経済の成長鈍化のしわ寄せをもろに食らうのは、地方からの出稼ぎ労働者。しかし、今後は市民の抗議に耳を傾けざるを得ない?>

今年に入って中国の製造部門でストライキが多発している。背景にあるのは、世界的な景気の減速だ。

世界経済が新型コロナウイルスのパンデミックから回復し始めた矢先にウクライナ戦争が勃発し、成長に急ブレーキがかかった。エレクトロニクスからアパレルまで、世界的な消費者ニーズの落ち込みは中国の製造業を直撃する。

中国では今、工場の閉鎖や操業停止が相次ぎ、退職金や失業手当もなしに大量の労働者が職を失っている。

景気低迷のしわ寄せをもろに食らうのは、「農民工」と呼ばれる農村部からの出稼ぎ労働者だ。こうした労働者が集中する中国沿海部の珠江と長江デルタの工業地域で小規模の労働争議が頻発している。

香港の労働NPO「中国労工通訊」の調べでは、今年1月から5月までに沿海部をはじめ中国全土で起きたストライキの件数は140件に上り、同時期に313件のストが発生した2016年以来最多を記録したという。

中国ではストが起きても国営メディアが伝えることはまずない。そのため中国労工通訊は主にソーシャルメディアの投稿を基に発生件数を記録しており、実際の件数はその10倍か20倍に及ぶとみている。

出稼ぎ労働者の多くは非正規か臨時の契約で雇用され、サービス残業や事前通告なしの解雇、賃金カットといった理不尽な目に遭いやすい。

非正規労働者も加入できる労働組合があれば、出稼ぎ労働者の権利も守られるだろうが、中国では公認の労組は全て全国組織の「中華全国総工会」の傘下に置かれ、それ以外の組合活動は禁止されている。

出稼ぎ労働者は社会保険や住宅手当も受けられず、何の保障もない場合が多い。

争議やストが起きると、治安部隊がすぐさま鎮圧に乗り出す。その模様を誰かがネットに投稿しても、検閲当局が即座に削除して、全て「なかったこと」にされる。

フォックスコンで争議

中国共産党は何であれ政治・社会運動をつぶしにかかるため、ストが増えたからといって、それが産業全体、あるいは都市や省全域に広がることはまずない。

ビジネス
暮らしの安全・安心は、事件になる前に守る時代へ。...JCBと連携し、新たな防犯インフラを築く「ヴァンガードスミス」の挑戦。
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中国防相が会談、ヘグセス氏「国益を断固守る」 対

ビジネス

東エレク、通期純利益見通しを上方修正 期初予想には

ワールド

与野党、ガソリン暫定税率の年末廃止で合意=官房長官

ワールド

米台貿易協議に進展、台湾側がAPECでの当局者会談
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中