最新記事
経済制裁

「ザルすぎる」アメリカの対中制裁──米連邦政府職員の年金を「制裁対象」中国企業が運用している

THE CHINA LOOPHOLE

2023年6月29日(木)15時02分
バレリー・バウマン(本誌調査報道担当)、ディディ・キルステン・タトロウ(本誌国際問題・調査報道担当)

太陽光パネルやその材料となるポリシリコンのメーカーも制裁対象となっている。制裁理由は中国西部の新疆ウイグル自治区での強制労働だ。米政府や国連や人権NGOによれば、新疆ではウイグル人など少数民族に対する人権侵害が深刻になっているという(中国政府は否定)。

さらに多くの企業が、技術の軍民共用や軍事技術の入手、個人のエスニシティ(民族性)を特定し得る技術の開発・普及などによる中国共産党の世界規模の監視を阻止するべく、制裁リストに掲載されている。

MFWから入手できる中国企業に加え、TSPのIファンド(ヨーロッパ、オーストラリア、極東のインデックスを追跡する国際ファンドでTSPの5つの主要投資オプションの1つ)には香港証券取引所に上場している中国企業33社が含まれ、その中には中国本土の制裁対象企業が共同所有する企業もある。

香港市場はグレーゾーンだが、香港が次第に中国の政治的・経済的支配下に置かれるなか、制裁支持派の間にはこれらの企業もアメリカの投資対象から外すべきだという意見もある。

各種の制裁・監視リストは中央レベルの調整が全くされていない。共和党のアンディ・バー下院議員は今年2月末、米下院が対中政策を専門に扱うために新設した「米国と中国共産党の戦略的競争に関する特別委員会」の初の公聴会でリストの「調和」の重要性を力説した。

「商務省のリストに載っている1000社を超える中国企業が、数社を除いてアメリカの資本市場で資金を調達し、アメリカの資本市場の威光を全て享受できるなどとんでもない」

トランプ政権で国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長を務めたマット・ポティンジャーも同じ意見だ。実際に投資できない企業は68社だが、軍との関係や人権侵害への関与が疑われる企業は数万社に上る可能性がある。「財務省が説明すべきことは多い」と彼は言う(財務省側は本稿についてコメントを拒否)。

TSPで提供されているファンドの投資対象には、SECによって、「外国企業説明責任法」に基づく制裁リストに載せられている中国企業も含まれている(外国企業が米国公開会社会計監査委員会による監査を受け入れていない場合、アメリカの証券取引所でその会社の株式の取引をすることが禁じられる)。この点について、SEC当局者たちは本誌の取材にコメントしていない。

同様に、国防総省、商務省、国土安全保障省、FCCの当局者たちも、TSPの下で、それぞれの官庁の制裁リストに載っている中国企業の株式への投資が容認されている件について、取材に応じていない。

宗教の自由と人権を守るために活動している非営利団体「カタルティスモス・グローバル」の権利擁護責任者を務めるフェイス・マクドネルは、「許し難いほど皮肉」な状況だと語る。

「(連邦政府職員が投資した)資金が、いつか(わが国の)兵士たちに対して使用されるかもしれない武器のために用いられる」可能性があると、マクドネルは懸念を口にする。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中