最新記事
アメリカ

「沈黙」する米潜水艦隊...本誌の調査報道が暴く「不十分すぎる」運用の実体

SUNK COST

2023年5月19日(金)12時30分
ウィリアム・アーキン(ジャーナリスト、元米陸軍情報分析官)

米海軍の今の目標は、核弾頭を搭載した弾道ミサイルを発射できる潜水艦を更新し、攻撃型潜水艦と巡航ミサイル搭載潜水艦の保有数を増やすことで、今のところ66隻を目指している。議会の承認を得られたら、年間3、4隻を建造することになるが、米海軍の過去の建造実績はお寒い限りだ。修理や保守点検もここ10年ほどの記録では予定どおりに完了できた作業は20~30%にすぎない。

新たな艦船の建造も予定より何カ月も遅れており、米会計監査院が最近、米海軍のスケジュールは「信頼できない」と報告したほどだ。

議会予算局(CBO)によれば、次世代の攻撃型潜水艦の建造費は1隻72億ドルと見積もられている。十数隻建造される新型のコロンビア級弾道ミサイル潜水艦は最終的には1隻83億ドル前後になる見込みだが、最初の1隻の建造費は兵器システムとしては史上最高レベルの150億ドル前後になりそうだ。ペイロードが大きい誘導ミサイルを搭載する潜水艦は1隻88億ドルと見積もられている。

米海軍はステルス性を高めた潜水艦に人工知能(AI)や量子コンピューターなど「津波のように押し寄せる新技術」を組み込む構想を掲げている。とはいえ現時点で潜水艦の戦力を増強する最も重要な技術は航空、海上、潜水の無人システムだ。陸上の戦闘スタイルを大きく変えたドローンは、潜水艦の活動にも劇的な変化をもたらしつつあり、将来的には対潜戦の性質が変わるとみる専門家もいる。

01年の9.11同時多発テロ後に中東で行った作戦行動から20年余りを経た今、米軍が「対中国」に軸足を移しつつあることは疑う余地がない。今や潜水艦はアメリカや同盟国の艦船の対中防衛にとどまらず、「台湾有事」、つまり中国が自国の領土の一部と見なす台湾に攻撃する事態を抑止・阻止する役割も担っていると、米海軍の上層部はみている。

米海軍が潜水艦隊を増強すれば、中国はそれに対抗するために技術開発に莫大な資金を費やし、資源を枯渇させるかもしれない。ちょうど冷戦時代に旧ソ連がアメリカとの軍拡競争にのめり込んだために崩壊に追い込まれたように......。

だが問題は、それ以上に潜水艦の実戦での有用性に大きな疑問が付きまとうことだ。「わが国の潜水艦が最強の兵器プラットフォームであることは間違いない」と、米国防総省の元調達担当幹部は言う。「だが、そろそろ優先順位を見直すべき時期に来ている。ウクライナ戦争で分かったのは(潜水の深度とは)違う深さ、兵器在庫の『深さ』が重要なことだ。実戦では基本的な銃と弾薬が大量に消費される」

元幹部はこうも付け加えた。「自分たちが作った神話に縛られて、この現実を見失ってはいけない」

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、保険会社の株式投資制度拡大へ 83億ドルの追

ワールド

パレスチナ・ガザ住民、半数が他地域移住を希望=調査

ビジネス

午前の日経平均は小反落、買い一巡後は見送り 連騰へ

ワールド

加州高速鉄道事業、米政府は資金負担せず=トランプ大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    分かり合えなかったあの兄を、一刻も早く持ち運べる…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 7
    「欧州のリーダー」として再浮上? イギリスが存在感…
  • 8
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 9
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中