最新記事
防空システム

極超音速キンジャール6発を撃ち落してわかった、ロシア核はそんなに怖くない

Russia's Hypersonic Kinzhal Missile Downed Near Kyiv, Ukraine Says

2023年5月17日(水)16時23分
ジェラード・カオンガ

ウクライナ軍が最初に撃ち落としたキンジャールの残骸。展示されている(5月12日、キーウ)  Valentyn Ogirenko-REUTERS

<プーチンが「どんな防空システムにも止められない」と豪語してきたキンジャール6発を含め全18発、高密度で飛んできたミサイルをウクライナがすべて迎撃できたとすれば、ロシアの核攻撃が成功する可能性は低くなる>

ウクライナは、ロシアが5月16日にキーウ上空に発射した極超音速の空対地ミサイル「キンジャール」6発を撃墜したと発表した。西側の防空システムの有効性を実証するとともに、ロシアがこの戦争にもたらす核リスクの大きさが変わる可能性もある出来事だ。

【動画】ロシアに衝撃を与えたウクライナのパトリオット

ウクライナの発表によると、MiG-31戦闘機から発射された6発のKh-47キンジャールは、ロシアが一晩で発射したミサイル18発の一部だ。キンジャールのほかには、陸上から巡航ミサイル3発、黒海から「カリブル」巡航ミサイル9発が発射されたという。

ウクライナ軍総司令官のヴァレリー・ザルジニーは、18発すべての迎撃に成功したと述べている。とりわけキンジャールは核弾頭を搭載可能で、最高速度マッハ10とされており、ロシアは「誰にも止められない」と豪語してきた。

ドイツのシンクタンク、ヨーロッパ・レジリエンス・イニシアチブ・センターの創始者であるセルゲイ・サムレニーは本誌に対し、「ロシアが止められないと言った兵器はこれが初めてではなく、ほぼ止められることが判明している」と語った。

ロシアに勝った防空システム

「今回の件は、ロシア軍とロシア技術の信憑性に傷をつけた」とサムレニーは続ける。「通常、このような攻撃においては、防空システムが手一杯で迎撃が間に合わなくなるはずだ」

「西側の武器支援を受けたウクライナ軍は、ロシアによる、これまでで最も現代的な兵器を使った激しい攻撃も撃退できることがはっきりした」

またサムレニーは「西側では、核戦争へのエスカレーションが起こり得るという恐怖はいまだに根強い」と言う。「しかし、すべてのリスクの重みを改めて見直す必要がある」と述べた。

ウクライナがロシアの最先端のミサイル迎撃に成功したのが本当だとしたら、ロシアによる核攻撃が成功する可能性は「私たちが考えていたより大幅に低くなる」とサムレニーは言う。

開戦以来、ロシアの国営テレビはしばしば、自国の核兵器を自慢してきた。ウラジーミル・プーチン大統領も核威嚇を行ってきた。

ノルウェー、オスロ大学の博士研究員ファビアン・ホフマンは本誌の取材に対し、これほど激しく、時間調整された、多ベクトルのミサイル攻撃を封じたウクライナの能力は、「たとえこれらのミサイルに核兵器が搭載されたとしても、途中で撃ち落とせる可能性が十分ある」ことを示唆すると述べている。

「この事実は、ロシアの意思決定者に難しい問いを投げ掛けることになる。核兵器の有効性について、これまでよりも不安を感じることになるだろう」とホフマンは話す。

だからといって西側が、これまでより核エスカレーションのリスクを冒そうしてはならないが、「核で対峙することがロシアの利益になるとは思わない」とホフマンは述べた。

SDGs
2100年には「寿司」がなくなる?...斎藤佑樹×佐座槙苗と学ぶ「サステナビリティ」 スポーツ界にも危機が迫る!?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米とウクライナ、和平案を「更新・改良」 協議継続へ

ビジネス

FRBの金融政策は適切、12月利下げに慎重=ボスト

ビジネス

米経済全体の景気後退リスクない、政府閉鎖で110億

ワールド

アングル:労災被害者の韓国大統領、産業現場での事故
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中