最新記事
アメリカ社会

訴訟で負けた直後に「ジャーナリズムの最高基準」と自画自賛で開き直る、米メディアFOX

2023年4月28日(金)20時20分
リチャード・ヘイセン(カリフォルニア大学ロサンゼル校法学教授)
ドミニオン・ボーティング・システムズ社

FOXとの和解合意後、裁判所を出るドミニオンのCEOと弁護団(4月18日) EDUARDO MUNOZ―REUTERS

<大統領選での虚偽報道に関する訴訟で多額の和解金を支払うことについて「裁判所の判断を認める」という太々しいFOX。謝罪を引き出せなかった問題について>

投票集計システム会社ドミニオン・ボーティング・システムズ社は2021年3月、保守系メディア大手FOXニュースの司会者とゲストが20年米大統領選挙における同社の投票機の役割について虚偽の報道を行ったとして、FOXを名誉毀損で訴えた(具体的にはトランプ前大統領にとって不利に、バイデン現大統領に有利なように投票を操作したと報じられた)。

投票機の不正はよくある陰謀論の1つ。トランプが大統領選の敗北を覆そうと嘘を重ねるなかで、右派のケーブルテレビとSNSで蔓延した。

FOXは裁判が始まる前から苦しい立場だった。宣誓証言や電子メールその他の社内資料によれば、FOX上層部は「選挙が盗まれた」という主張が確たる証拠のない大ウソであることを知っていた。

予審判事も公判開始前に、ドミニオンの投票機が不正に操作されたという主張が虚偽であることは明白であり、FOXは単にそれを報道したにすぎないとは言えないとの法的判断を下している。

唯一の現実的な問題は、FOXが「実際に悪意」を持って虚偽の報道を行ったかどうか。

この判断基準は公職者や公人の報道を行うジャーナリストらを保護するために最高裁が設けたもので、報道の発信者が虚偽と知りながら、あるいは真実か虚偽かを無視して発言したことの証明が必要とされている。

最終的にドミニオンは審理入り直前の4月18日、FOXから7億8750万ドルの和解金を受け取ることで合意した。ドミニオンが被った評判の失墜を補って余りある金額だ。

ただし、この和解には謝罪の表明や、FOX視聴者に向けた放映中の事実認定は含まれていない。国民が得られる最大の成果は、FOXが発表した「ドミニオンに関する特定の主張は虚偽であるとする裁判所の判断を認める」という声明の一文だけだ。

しかもFOXはその直後、「ジャーナリズムの最高の基準に責任を負い続けた」自社の姿勢を自画自賛している。この一件により多くを期待していた人は深い失望を表明した。

ジャーナリズム専攻の大学教授でコラムニストのマーガレット・サリバンはツイッターでこう指摘した。

「ドミニオンは謝罪を要求すべきだった。放送中の明白な謝罪を含めFOXから謝罪を引き出せれば、公共の利益になっていたはず」

食と健康
「60代でも働き盛り」 社員の健康に資する常備型社食サービス、利用拡大を支えるのは「シニア世代の活躍」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

現代自、米国生産を拡大へ 関税影響で利益率目標引き

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中