最新記事
ドイツ

「どこから来たかが問題となるべきではない。どこに行きたいかが重要だ」元シリア難民が29歳でドイツ地方自治体のトップに

2023年4月10日(月)14時47分
モーゲンスタン陽子

2015年シリアを脱出しドイツに移民したライアン・アルシェブルが地方自治体の長になった REUTERS/Lukas Barth

<2015年シリアからドイツにやって来た現在29歳の青年がドイツ南部の人口2500人の小さな地方自治体(ゲマインデ)の長に選出された>

2015年の欧州難民危機の際、シリアからドイツにやって来た現在29歳の青年が4月2日、同国南部バーデン=ヴュルテンベルク州の人口2500人の小さな地方自治体(ゲマインデ)の長に選出された。保守的といわれる南部での快挙に世界的な注目が集まっている。

兵役を逃れてドイツに

本人ホームページによると、ライアン・アルシェブル(Ryyan Alshebl)は2015年、他の何百万人と同様、兵役を逃れるためにシリアから脱出した。当時ドイツに亡命したのは約90万人。ボートで地中海を渡り、最終的にアルシェブルはドイツ南部のバーデン=ヴュルテンベルク州(州都シュトゥットガルト)に到着。故国では大学でファイナンスを学ぶ学生だったが、その道が断たれたこと、またドイツ到着後に非常な孤独感に苛まれたことから、すぐに自分の将来を立て直すことに集中したという。短期間でドイツ語を習得し、事務アシスタントとしてのトレーニングを開始、その後7 年間、同州カルヴ地区の自治体アルテングシュテット庁舎で働いた。

アルテングシュテットの自治体では行政書記官として二重の訓練を受けることが可能で、そこで政治と法に対するアルシェブルの情熱が満たされた。最終学年で上位 5% に入っていたので、州は英才教育プログラムの一環としてアルシェブルに奨学金を提供。アルシェブルの才能と政治への情熱を見抜いた上司が、同州オステルスハイム自治体長に立候補するよう説得した。 アルシェブルは緑の党のメンバーであるが、今回は無党派の候補者として選挙に出馬している。

16歳が初めて選挙に参加

第一回選挙で 68.39%という高い投票率のうち55.41%を獲得し、他の2人の候補者を抑えて圧倒的勝利で長に選ばれた。今回のオステルスハイムの選挙では、16歳が初めて投票に参加できるようになった。緑の党元党首で、ショルツ政権で初のトルコ系連邦議会員・閣僚となったジェム・オズミデル食料・農業大臣は「今日、オステルスハイムはドイツ全土に寛容と国際主義のシグナルを送った」と祝辞を述べ、バーデン=ヴュルテンベルクの地方紙も「20年前には考えられなかった」と報じている。

移民に関するリサーチグループ、メディエンディーンスト・インテグレーションによると、ドイツ全人口の27%が国外にルーツを持っているにもかかわらず、自治体長に限るとその割合は1.2%に過ぎない(2022年5月)。先月、絶対過半数となる候補者がなかったため決選投票によりフランクフルト市長に選ばれたSPD(ドイツ社会民主党)のマイク・ジョセフも生まれはシリアだが、80年代からドイツで暮らしている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中