最新記事
中国共産党

「独裁者」習近平の陰に隠れた「最弱」首相...それでも改革を貫いた李克強が遺したもの

Li's Real Legacy

2023年3月8日(水)18時12分
ダン・マックリン(中国政治アナリスト)

李が習に本気で盾突いたことは一度もないが、彼が党のエリートの間に推し進めた改革主義的な価値観は習に挑戦を突き付けてきた。昨年8月中旬、李は深圳を訪れて鄧小平の像に献花し、「黄河と長江(揚子江)は決して逆流しない」と発言。これは、鄧が唱えた改革開放路線を絶対に後退させないという意味に受け取れる。

この発言を、引退が近い李の最後の訴えと受け取る向きもあった。だが李がこう語ったという事実は、党大会を前に改革主義が共産党内で論点になっていることを示してもいた。

もっと言えば、李が改革主義の政策課題に対して明確に支持を表明できたということは、共産党に改革主義への根強い支持が残っているという証しだった。

その点が明らかに見て取れたのが、習が10月の党大会の後に行った重要演説だ。

李の努力が最終的に勝利した

演説の中で習は、「中国の改革開放の扉はますます大きく開かれていく」と宣言。中国政府はその数週間後、パンデミック中に廃止された改革主義の目標を迅速に復活させようと行動を起こした。国境は再び開かれ、企業は自由な活動を許され、規制当局による取り締まりは打ち切られた。

その後も李は、改革主義を擁護する姿勢をさらに強めた。今年1月に国家市場監督管理総局で行った挨拶では、中国の市場経済を引き続き拡大することの重要性を説いた。2月に中国国家発展改革委員会と財政省を視察した際にも、改革開放の取り組みを継続する重要性を強調した。

これは、改革主義の実現を目指す共産党の強い意志を復活させようという李の努力が最終的に勝利したということだろう。それでもこの勝利は、李の個人的な権力の復活につながらなかった。

しかしこの勝利は、中国の政治と経済における改革主義の価値観がとてつもなく大きな力を持っていることを示した。それは、習のような絶対的指導者が持つ権力さえしのぐ力だ。

もちろん、習の反改革主義的なアプローチの多くの部分は今も変わっていない。中国が突如として、勢いのあった改革の時代にタイムスリップしたわけではない。しかし中国政府が正統性を保つ条件として、経済的な繁栄は今も欠かせない。

李は政界から退く準備を進めているが、彼が擁護し続けてきた改革主義の価値観はこれからも生き続ける。彼にとって任期満了間近に改革主義が再び重要な位置を占めたことは、10年間務めた首相職の最も重要なレガシーの一部となるだろう。

From thediplomat.com

ニューズウィーク日本版 非婚化する世界
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月17日号(6月10日発売)は「非婚化する世界」特集。非婚化と少子化の波がアメリカやヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中