最新記事

日韓関係

「韓国は盗品すら返さない国という風評を危惧する声も」......対馬から盗まれた仏像、韓国の反応とその顛末

2023年2月14日(火)17時03分
佐々木和義

一方、韓国検察は即日控訴し、併せて「金銅観音菩薩坐像仮執行引き渡し強制執行停止申請」を提出した。検察は浮石寺に返還すると毀損が進む可能性があり、また、高裁や最高裁で判決が覆されたとき、仏像の回収が困難になると考えた。

海神神社に返還された「銅造如来立像」は毀損していて、外交摩擦を危惧した日本側は、窃盗団の移送の過程で毀損したという韓国側の弁明を受け入れている。高裁は検察の主張を妥当と判断し、浮石寺への引き渡しを留保した。

大田高裁は18年6月に開かれた控訴審で和解案を提示している。仏像を日本に返して複製品を作るという案である。「千年万年が過ぎると新しい仏像も意味を持つし、韓国と日本に双子の仏像ができる」と提案したが、浮石寺が拒絶した。

大田高裁は浮石寺の所有権を認めた一審判決を取り消した。観音像が倭寇に略奪された可能性に言及しながらも「当時の浮石寺と現在の浮石寺が同一の宗教団体ということは立証できず、正規の手続きで譲り受けたという観音寺の主張も確認は難しいが、観音寺が法人化した1953年から2012年まで60年間占有しており20年の取得時効が成立する」と判決理由を説明した。

韓国検察は、一定期間、占有すると所有権が認められる取得時効を主張し、参考人として出廷した観音寺の田中節竜住職も仏像は16世紀に同寺を創建した僧侶が正当に韓国から持ち帰ったもので取得時効が成立していると主張していた。

韓国は盗品すら返さない国という風評を危惧する声

韓国仏教界は、浮石寺への引き渡しを求めるが、朝鮮日報は日本に返すべきだと主張する。同紙は社説で、浮石寺が略奪されたと主張するなら国際法が定める略奪文化財の手続きを行うべきだと論じている。正論と言えるだろう。韓国文化財庁も略奪された文化財は戻すのが原則だが、もし倭寇が略奪したことが確認されたとしても、日本に返還してから返してもらう過程を経なければならないと述べている。また、韓国は盗品すら返さない国という風評を危惧する声もある。

仏像を保管する国立文化財研究所は早急な解決を求めている。変色や錆など毀損が激しいが、盗難証拠品の保存処理は認められていない上、日本への返還が決まると韓国の修復が新たな摩擦を引き起こしかねない。日本への返還が急がれる。

Photo: REUTERS/Kim Hong-Ji, REUTERS/Susana Vera, KBS News-YouTube

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化

ビジネス

デジタルユーロ、大規模な混乱に備え必要=チポローネ

ビジネス

スウェーデン、食品の付加価値税を半減へ 景気刺激へ

ワールド

アングル:中ロとの連帯示すインド、冷え込むトランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中