少女は赤ん坊を背負いながらコバルトを掘る──クリーンエネルギーの不都合な真実

CLEAN ENERGY’S DIRTY SECRET

2023年2月8日(水)12時49分
シダース・カラ(イギリス学士院グローバル・プロフェッサー)

230214p44_CBT_03.jpg

キプシ社の坑道では安全基準が守られている DEAGOSTINI/GETTY IMAGES

数分揺すると、ふるいには小石だけが残った。アンドレは息を切らし、ふるいを持っているのがやっとのありさま。キサンギが残った小石を手で集める。袋の中身を全部ふるいにかけるには、今の作業を10~15回繰り返さなければならない。2人は1日に5~6袋をふるいにかける。

フィリップと私は池を後にし、採掘地のさらに奥へと進んだ。起伏に富んだ一帯のあちこちに採掘の穴がぽっかり口を開けている。

土ぼこりでかすむ視界に、荒れ果てた風景が広がる。木は残らず切り倒され、空には1羽の鳥も舞っていない。赤ん坊を背負った10代の少女を何人も見かけた。この辺りの少女はみんな赤ん坊を背負っているかのようだ。

ザンビアとの国境近くか、あるいはその反対側か、地図上の位置ははっきりしないが、腰布を巻きTシャツを着て浅い穴に立って採掘作業をしている数人の女性たちに出くわした。穴の底には深さ15センチほど、赤銅色の水がたまっていた。

彼女たちは血縁集団ではないが、身を守るために一緒に働いているという。この一帯では男性の作業員や仲買人、兵士らによる性暴力が吹き荒れている。彼女たちは全員、知り合いに被害者がいると話した。ここに来る途中に見かけた赤ん坊連れの少女たちも、少なくとも何人かはレイプされて妊娠したのかもしれない。

坑内に引きずり込まれ、男たちの性欲のはけ口にされる女性たち。コバルトのグローバルなサプライチェーンを支えるのは、彼女たちのような人々だ。心身ともにボロボロになりながら、生きるために必死で地面を掘る「見えない働き手」だ。

プリシーユという名の若い女性がプラスチック製のたらいで穴の底の泥水をすくっては、そばに置いたふるいに入れていた。灰色の泥と砂でふるいがいっぱいになると、ふるいを激しく揺らす。そうやってコバルトを含んだ砂を集めて袋に入れる。

その日の作業が終わると、女性たちはそれぞれ4~5キロの袋を担いで採掘地の入り口まで歩いてゆき、仲買人に1袋0・8ドル前後で売る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪中銀、予想通り政策金利据え置き 追加緩和に慎重

ワールド

豪中銀、コアインフレ率は26年後半まで目標上回ると

ワールド

中国副首相、香港と本土の金融関係強化に期待

ワールド

高市首相、来夏に成長戦略策定へ 「危機管理投資」が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中