最新記事

ロシア

かつて強盗犯だった男が軍事会社設立しプーチンに接近 ワグネル創設者は英雄か手駒か

2023年1月17日(火)17時17分
エフゲニー・プリゴジン氏(左)とプーチン大統領

民間軍事会社「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジン氏(左)とプーチン大統領 REUTERS

旧ソ連邦時代の末期、エフゲニー・プリゴジン氏(61)は盗みの罪で惨めな獄中生活を強いられていた。それが今や、ロシアで最も強力な傭兵集団の創設者として、ウクライナにおける戦果をアピールしてプーチン大統領からより大きな「寵愛」を得ようと一層の接近を図っている。

プリゴジン氏が率いる民間軍事会社「ワグネル」の部隊は、激戦が続くウクライナ東部ドネツク州バフムト北東郊外のソレダルを制圧したと表明。この軍事的成功を積極的に利用しようというのが、同氏の目論見だ。

プリゴジン氏によると、ソレダルを巡る戦闘はワグネルが単独で行った。だが、ロシア国防省は当初、正規軍が活躍したと主張。国防省側は13日、ソレダル制圧を正式に発表するとともに、勝利には正規軍の空挺部隊とミサイル部隊、砲兵部隊が貢献したと説明した。

これについてプリゴジン氏は、政府はワグネルに正当な称賛を送っていないと非難。「彼らは常に、ワグネルから勝利を盗もうとたくらみ、ワグネルの評価をおとしめるためだけに名前も知らない別の集団の存在を話題にしている」と憤った。

国防省はその後、状況をより「明確にする」として新たな声明を公表。ソレダル突入部隊の一角に「勇敢で自己犠牲的な」ワグネルの戦闘員が含まれていたと述べた。

このように存在感を増すプリゴジン氏は、いつかロシア国防相になってもおかしくないと、何人かの評論家は予想する。もっともプーチン氏が側近グループを互いにけん制させて「分割して支配する」政治手法を用いる傾向にある以上、プリゴジン氏が果たしてどの程度、プーチン氏への影響力を持っているのか、実際のところは良く分からない。

新しい英雄

プーチン氏の有力な支持者(そのうち何人かは同氏との直接的なパイプを持つ)は、さえない結果しか残せていない正規軍と比べ、プリゴジン氏が見事な成果を上げていると指摘する。

プリゴジン氏を「新しい英雄」をほめそやす元ロシア大統領顧問のセルゲイ・マルコフ氏は「プリゴジン氏にも欠点はあるが、私はそれらを口にしたくない。なぜならプリゴジン氏とワグネルは現在、ロシアの国家的な宝だからだ。彼らは勝利の象徴になっている」と自身のブログに記し、政府がワグネルにもっと資源を回すべきだと提言した。

政府系メディアRT編集長で大統領側近でもあるマルガリータ・シモニャン氏も、ソレダル制圧に関してプリゴジン氏に感謝の意を表した。

大統領府のスピーチライターだったアッバス・ガリアモフ氏は自身のブログで、プリゴジン氏はプーチン氏がショイグ国防相を更迭する事態をにらんで行動しているとの見方を示した。

プーチン氏はこれまでワグネルに関して、国家を代表していないが、ロシアの法令にも違反しておらず、世界のどこにおいても活動し、ビジネス上の利益を増進させる権利があるとの見解を明らかにしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中