最新記事

東南アジア

インドネシア、収賄容疑で知事逮捕に支持者ら暴徒化 催涙弾で応じる警察と市街戦

2023年1月11日(水)18時45分
大塚智彦

ルーカス知事はタビ・バングン・パプア開発会社のリジャントノ・ラッカ社長からインフラ整備事業に関連して多額の賄賂を受け取っていた。その額は事業の総契約額の14%が相場だったといわれている。

ラッカ氏が受け負った事業は道路の改良工事、環境管理センター、幼児教育サポートセンターなどで総事業費は約410億ルピアになるとされている。少なくとも10億ルピアをルーカス知事に渡した贈賄側のリジャントノ氏もKPKから汚職事件の容疑者に指定され、現在拘留中という。

ルーカス知事は受け取った賄賂をシンガポールやオーストラリアなど海外のカジノでの遊興費に使っていたとみられている。

しかしルーカス知事は健康状態を理由に何度もKPKの召喚には応じてこなかった。

このためKPKは2022年11月3日に捜査官をパプア州都ジャヤプラに派遣、ルーカス知事と面会して健康状態を確認した。この時も知事は体調の不良を訴えてKPK捜査官との面会はわずか15分で中断された。

しかしその後ルーカス知事は複数の公務を公の場所でこなしており、12月30日には州政府事務所の発足記念式典に参加するなどしていたため病気が仮病でないかとの疑いが強まっていた。

支持者らの抗議で逮捕に5年越し

今回KPKでは逮捕に先立ち関係者や証人65を聴取して収賄の容疑を固めて逮捕に踏み切ったという。

ただルーカス知事の弁護士は知事が腎臓、肺の病気と脳卒中の危険性があることなどを挙げてシンガポールの医療機関での治療が必要と主張している。これに対しKPKは引き続きルーカス知事の健康状態には最新の注意を払うと強調している。

ルーカス知事は2017年にも奨学金流用疑惑でKPKから捜査を受けたことがある。この時は事件の証人に指定されたが、逮捕までに至らなかった。背景には再選を目指す州知事選が2018年に迫っており、支持者らが「KPKの捜査は政治的動機に基づく弾圧だ」と抗議運動を展開したことも影響しているといわれていた。

ジョコ・ウィドド大統領はこうしたルーカス知事へのKPKの捜査に関して「法の前に荷は全ての人は平等である」として支持を表明している。

インドネシアでは1998年に崩壊したスハルト長期独裁政権下で蔓延していた「汚職・腐敗・親族主義(KKN)」の残滓が民主化後も色濃く社会に存在し、KPKによる懸命の汚職捜査にも関わらず、閣僚や国会議員、州知事、裁判官、外交官などの収賄事件が後を絶たない状況が続いている。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中