最新記事

スポーツ

子ども40人以上含む135人が亡くなったサッカー場圧死事件、初公判は異例の非公開に

2023年1月19日(木)19時36分
大塚智彦
ピッチに乱入したサッカーファンたち

カンジュルハン・スタジアムで起きた事件では40人以上の子どもを含む135人の死者が出た REUTERS TV

<フーリガンの乱入などを警戒した公判は誰のためのものか>

2022年10月1日にインドネシア東ジャワ州マランのサッカースタジアムで40人以上の子どもを含む135人の死者が出た圧死事件。その初公判が1月16日に同州州都スラバヤの地方裁判所で始まった。

裁判では過失罪に問われた被告5人全員が無罪を主張するとともに審理は非公開となり、犠牲者の家族などからは「密室裁判」だとの非難の声が上がる事態になっている。

マランの「カンジュルハン・スタジアム」で起きた事件は、試合終了後にピッチに乱入したファンに対し警察が催涙弾を発射。ファンが狭い出口に殺到したことで被害が拡大したとされる。こうしたことからジョコ・ウィドド大統領が重大事件と認識し、真相解明と責任の所在を明らかにして再発防止を徹底するよう関係機関に指示した。

国際サッカー連盟(FIFA)もサッカー史上2番目の犠牲者を出した事件を重くみて、FIFAの出先機関をインドネシアに設置することを発表。インドネシアのサッカー事情やスタジアムの環境、設備さらに警備のあり方の「変革」を見守ることになっている。

被告5人そろって無罪主張

16日に行われた初公判は本来マランの裁判所で開廷する予定だったが、地元のサッカーファンが殺到する恐れがあるなどの理由で約80キロ離れたスラバヤの地裁での裁判となったという。そのうえでスラバヤ地裁周辺、裁判所内には武装した警察官による厳重な警備体制がとられ、立ち入りが厳しく制限された。

初公判には被告側弁護人が出廷し、被告5人は別の場所からオンラインでの参加となった。5人の被告は事故当時警備に当たった責任者など警察官3人とスタジアムとチームの警備責任者2人の計5人で、問われている過失罪での有罪判決が下されれば最大で禁固5年の刑が科されることになる。

弁護人によると罪状認否で5人は全員が無罪を主張した。

初公判は報道関係者の立ち入りが禁止されたほか、犠牲となったサッカーファンの遺族をはじめ一般の傍聴も許されず、裁判官、検察官、弁護人その他の裁判関係者以外は法廷に入れないという異常な事態の中で審理が行われた。

インドネシアの人権団体「行方不明者と暴力犠牲者のための委員会(Kontras)」はこうした裁判所の厳しい警備を「明らかに行き過ぎだ」と批判している。

インドネシアの裁判は通常、関係者や一般人の傍聴が可能で、テレビ・新聞などの報道陣も自由な取材が認められ、被告の撮影、裁判の実況中継までも許されているのが通常の状況である。

このため犠牲者の遺族まで傍聴が許されないという今回の初公判については、人権団体や遺族からは「暗黒裁判だ」「厳重な警備は誰から誰を守ろうとしているのか」「裁判の透明性が疑われる」などの不満や批判が沸き起こっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中