最新記事

事件

現金3400万円残し孤独死した右手に指のない女 40年住んだ町で住民登録がない謎すぎるその正体は...

2022年12月22日(木)11時45分
武田惇志(共同通信社記者)、 伊藤亜衣(共同通信社記者) *PRESIDENT Onlineからの転載

銀行口座から消えた計500万円

通帳は三井住友銀行の方がNHK、大阪ガス、関西電力、NTTの引き落としがあるのみで、公共料金用だったとみられる。最後の引き落としは2020年4月27日で、女性の遺体が発見された翌日のこと。自動引き落としになっていたのだろう。

不可解なのはゆうちょ銀行の方である。最も古い2008年7月の繰越残高が500万266円。当初は時々、月に1〜3万円ほど引き出されていた程度だったが、2014年3月から数日おきのペースで、1回あたり10〜20万円が次々と引き出されていき、翌年6月には残高が202円となって履歴印字が終わっている。彼女自身が引き出したのだろうが、その500万円はどこへ行ったのか。金庫から見つかった現金の一部を構成しているのだろうか。

それにしても理由が推し量れない行動である。いくら彼女の生活が謎に包まれているとはいえ、現在のアパートの家賃は3万1500円。電気代など公共料金が別の通帳から落とされていたことを考えると、月に20万円も生活費に要したとは思えない。

さらに不可解だったのがアルバム外の写真で、アルバム内の写真と同じときに撮影したとおぼしき写真に加え、誰かわからない子どもの写真が2枚あった。

資料の確認を終えたときには、すでに日は暮れて外は薄暗くなっていた。大阪へ帰る電車に揺られながら、これからどうしようかと思案に暮れた。3日前に太田弁護士からZoomで聞いた話は、今日の作業で多くが裏付けられたのは間違いない。

もちろん、最初に調査に入った警察にも話を聞く必要があると思ったが、記者発表した事件でもないし、取材対応してくれるかどうかは望み薄だった。

警察も探偵も見逃した情報はあるのか

まずは大家など、資料に出てきた関係者に直接当たるべきだろう。探偵の仕事をある程度トレースする作業である。聞き込みも繰り返したいが、プロが1カ月かかって大した成果を上げられなかったことを、記者が本業の合間に片手間でしてもしょうがない。地域で右手指のない女性の存在が知られていたかどうかぐらいは、ちょっと商店街を聞き込むだけで手応えがわかるだろうし、それでよしとすべきと思った。

聞き込みで力を入れるとするなら、やはり元勤務先の製缶工場だろう。探偵は経営者一家を追おうとして失敗したようだが、経営者にこだわらず従業員ではどうか。誰か関係者を一人、見つけられたら十分なのだ。女性はなぜ労災事故に巻き込まれたのか。それが孤独な生活を送るようになったきっかけなのか。女性には夫がいたのかどうか。なぜ労災支給を打ち切ったのか。そのあたりは、かつての同僚に聞けばわかるはずだろう。

また、「田中竜次」さんの勤務先となっていた富士化学紙工業も気にかかる。警察の照会では虚偽の勤務先だったそうだが、それも間違いないのかは自分の目で確かめてみたい。最も、正攻法で企業に電話しても取り合ってもらえないだろうから、1980年代に在籍していた社員を探し出す必要がある。

写真類に関しては、一度伊藤と細かくチェックして、画像の中に何かしらの手がかりが写り込んでいないかを徹底的に洗うべきだろう。警察も探偵も見逃がしている情報が隠されているかもしれない。

突破口となりうるのは「沖宗」の印鑑

books20221215.pngそして最後に、「沖宗」の印鑑だ。この姓の謎については、警察は広島県・広島市への問い合わせをしているのみで、探偵は全く手をつけていない。突破口があるとしたら、おそらくここだろう。珍しい姓なのだから、地域の印鑑業者を回ることも有効そうだ。

「沖宗」姓の人物を電話帳から全部拾って、電話することも面倒だが不可能ではない。ただその場合、相手に不審がられて嘘をつかれたり、取材拒否にあったりしたら元も子もない。電話では嘘をつかれているかどうかよくわからないし、一方的に通話を切られたらそれまでなのだ。まずは何らかの方法である程度、女性との血縁関係がありそうな人物を絞り込んでいき、直接取材を敢行する必要があるだろう。

警察署、市役所、弁護士、家庭裁判所、そして探偵。多くの人の手を経て、なお身元が判明しない「田中千津子」さん。調査者の末席に私たち記者も加わることになった。

参考記事:47NEWS「現金3400万円を残して孤独死した身元不明の女性、一体誰なのか(前編) 『行旅死亡人』のミステリーを追う

武田惇志(たけだ・あつし)

共同通信社記者
1990年生まれ、名古屋市出身。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。2015年、共同通信社に入社。横浜支局、徳島支局を経て2018年より大阪社会部。

伊藤亜衣(いとう・あい)

共同通信社記者
1990年生まれ、名古屋市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修了。2016年、共同通信社に入社。青森支局を経て2018年より大阪社会部。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

USAレアアース株、一時26%上昇 米政府の16億

ワールド

トランプ氏、ミネソタ州知事と協議 地裁は移民摘発停

ワールド

北極圏防衛強化はNATO主導へ、グリーランド協議は

ビジネス

米耐久財コア受注、25年11月は0.7%増 5カ月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 7
    中国、軍高官2人を重大な規律違反などで調査...人民…
  • 8
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 9
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中