最新記事

中国

習近平、抗議拡大受け妥協か強行突破か 岐路に立つ中国「ゼロコロナ」

2022年11月29日(火)13時10分
防護服姿の作業員

中国で新型コロナウイルス対策として厳しい行動制限を強いる「ゼロコロナ」政策に抗議する行動が全国に広がっている。写真は28日、住宅地の前に立つ防護服姿の作業員ら。北京で撮影(2022年 ロイター/Thomas Peter)

中国で新型コロナウイルス対策として厳しい行動制限を強いる「ゼロコロナ」政策に抗議する行動が全国に広がっている。中国問題専門家によると、これはゼロコロナにノーを突き付ける実質的な住民投票であり、習近平指導部発足後で最も強い一般市民からの政策に対する拒絶反応だ。

これほど多くの人々が拘束やその他の報復措置を受ける危険を知りながらも街頭に繰り出した光景は、1989年に起きた天安門事件以降久しく目にされていない。

アジア・ソサエティーの中国専門家ベーツ・ジル氏は「習近平氏が権力を握ってからの10年間で、政府の政策に対して市民が最も公然と、かつ広範に怒りを表明した」と述べた。

ゼロコロナを巡る市民の不満はソーシャルメディア、大学構内でのポスター掲示、あるいは抗議行動などさまざまな形で表明され、習氏にとっては2019年から20年にかけて起きた香港民主化運動以来の大きな国内社会問題となっている。

習氏はこれまで新型コロナウイルスを封じ込める「戦争」を主導するのは自らの責任だと強調し、ゼロコロナを正当化。10月に開催された第20回中国共産党大会では、「正しい」コロナ政策を政治的実績の1つとして報告した。

パンデミックが始まって3年近くを経た今、中国は政策の目標について感染者を常にゼロにすることではなく、「新規感染者が判明すればダイナミックに行動する」ことだとしている。

今回の抗議行動は習氏にとって悩ましい事態ではあるが、習指導部が倒れる段階には到底至っていない、と専門家は指摘する。なぜなら習氏は党と軍、治安部門、広報宣伝部門を完全に掌握しているからだ。

一枚岩のもろさ

確かにデモ参加者の一部は「習近平打倒、中国共産党打倒」と叫んでいる。しかし大半の人々は自分たちの住宅が封鎖されたのに抵抗したり、頻繁な検査を受けるのを拒んだりしているに過ぎない。

上海政法学院元准教授で現在はチリを拠点に評論活動をしているチェン・ダオイン氏は「これらの個人的な利益が満たされれば、ほとんどの人は気が収まって退散するだろう」と話す。

チェン氏によると、学生たちも高度に組織化されておらず、1人の中心人物に率いられているわけでもない。

天安門事件の場合、当時の共産党最高指導部内で危機対応方法や今後の中国が進むべき道について意見対立があった。

ところが習指導部にそうした対立は存在しない。習氏は先の共産党大会で党と軍の最高指導者に再任され、党の要職には腹心の側近を配置。かつて習氏に反対意見を表明したり、別の政策を遂行したりした指導部内の人物は中枢から遠ざけられた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ

ワールド

アングル:好調スタートの米年末商戦、水面下で消費揺

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中