最新記事

ドイツ

ドイツ首相、「中国を説得する」と言いながら企業家連れて訪中の矛盾

NO SERIOUS ZEITENWENDE YET

2022年11月21日(月)12時40分
ヘルムート・アンハイアー(独ヘルティ行政大学院教授)
李克強、ショルツ

北京の人民大会堂で李克強首相(左)と歩くショルツ(11月4日) KAY NIETFELD-PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

<ウクライナ侵攻後、消極的な外交政策の転換や「フェミニスト外交」強化を宣言したドイツだが、実際の行動を見ると、今もロシアや中国に甘いまま。なぜなのか>

ロシアによるウクライナ侵攻直後の2月末、ドイツのショルツ首相は国防・外交政策における「時代の転換」を宣言。その後も欧州安全保障の統合と経済連携の深化を繰り返し表明している。

9月には、ベアボック外相が専制政治から自由主義の秩序を守るため、ヨーロッパの価値観に基づく「フェミニスト外交」を強化すると発表した。

他国から消極的で頑固で曖昧だと批判されてきた外交政策を放棄するというメッセージだ。

ドイツは過去数十年間、ヨーロッパの自由主義的価値観に基づく外交を推進すると公言してきたが、一方で専制主義国家とのビジネスに前のめりだった。具体的な軍事力強化の問題では事実上の「ただ乗り」を続け、同盟国との協議や彼らの正当な懸念への配慮をしばしば怠った。

ドイツの歴代首相は1990年代のコールから現在のショルツまで、貿易政策と対話が潜在的な敵対国との関係改善につながると考えてきた。アメリカやフランスなどの主要同盟国と距離を置き、いずれ自国の脅威になりかねない国家への経済的依存を深化させてきた。

その結果、ロシアのプーチン大統領はウクライナに侵攻した時点で、ドイツの天然ガス供給の命綱を握る存在になっていた。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が事実上の独裁体制を確立したとき、ドイツの巨大な輸出部門の対中依存は後戻りできないところまで来ていた。

初期の兆候から判断する限り、現政権も公言する目標と実際の行動の間に相変わらずギャップがある。

ウクライナ支援を表明後も、軍事・物資の支援は遅々として進まず、国防軍の強化も大幅に遅れている。さらにエネルギー価格高騰の影響緩和策を一方的に進めたことで、EU内で孤立を深め、独仏間の緊張を高めている。

フェミニスト外交についても、女性たちが火を付けたイランの抗議行動への対応が遅れ、最初のテストに失敗した。

さらに11月初めのショルツの中国訪問は、ドイツの立場の曖昧さに拍車をかけるものだった。ロシアの核兵器使用に反対するよう中国を説得するのが目的だというが、それならなぜドイツ企業の幹部が同行したのか。

もっと広く言えば、なぜドイツはロシアや中国といった敵対勢力に甘く、最も重要な同盟国をしばしば遠ざけてきたのか。

相互に関連する4つの理由があると、筆者は考える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中