最新記事

ドイツ

ドイツ首相、「中国を説得する」と言いながら企業家連れて訪中の矛盾

NO SERIOUS ZEITENWENDE YET

2022年11月21日(月)12時40分
ヘルムート・アンハイアー(独ヘルティ行政大学院教授)

第1に、ドイツ外交は長期的な戦略思考が欠けている。そのため「状況は常に激変する可能性がある」という地政学の基本ルールに対応できない。

第2に、ドイツ外交は企業利益と深く結び付いている。ドイツが言う外交政策とは要するに貿易政策だという表現も、あながち過大な誇張ではない。その結果がロシア産エネルギーと対中輸出への危うい依存だ。

第3は、不安定な状態が長期間続く「パーマクライシス」現象だ。2021年末に誕生した現政権は新型コロナのパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻、エネルギー危機、100万人の難民、インフレと景気減速など難題への対応に追われ、メルケル前首相時代の軌道修正を実行に移すための時間がなかった。

最後に、現政権は情勢が比較的安定していた昨年末に成立した脆弱な連立政権だ。左派の緑の党が外務省と経済省、企業寄りの自由民主党(FDP)が財務省を率いているため、調整の失敗が相次いでいる。ガス料金の上限設定問題、ショルツの訪中、他のEU諸国を圧迫する高値でのエネルギー購入などがいい例だ。

ドイツ外交には今も同盟国への配慮と敵対国への強い姿勢が欠けている。この2つ抜きに「時代の転換」は不可能だ。

©Project Syndicate

NW_Helmut_prof.jpgヘルムート・アンハイアー
HELMUT K. ANHEIER
独ヘルティ行政大学院教授(社会学)、米UCLAラスキン公共政策大学院非常勤教授(社会福祉)。共著に『台頭する非営利セクター』(ダイヤモンド社刊)がある。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏が

ビジネス

エヌビディア、新興AI半導体開発グロックを200億

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ワールド

米、ベネズエラ石油「封鎖」に当面注力 地上攻撃の可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中