最新記事

米ネット

ペロシ宅襲撃事件は「夫と男娼の痴話喧嘩だった」説の出所

The Paul Pelosi Conspiracy Raced from the Fringe to Mainstream. Here's how

2022年11月8日(火)10時45分
ロレンツォ・アルバンテス、マッケンジー・サデギ(ニューズガード)

ニューズガードは、KTVUを引用する形でデパペが事件当時下着姿だったと主張する少なくとも70件のフェイスブックやツイッター、TikTokなどへの投稿や記事を特定した。つまりこれは、加害者と被害者が深い仲だったことを示す「証拠」だ、というわけだ。

2人が親密な仲だったという根拠のない主張は、30日にトランプの長男で885万人のフォロワーを持つドナルド・トランプ・ジュニアが「ポール・ペロシに仮装するハロウィーンの衣装の準備完了」というコメント付きでブリーフとハンマーの画像をリツイートしたせいでさらに勢いを増した。この投稿は約2万件以上のいいねを獲得した。


右派の人物が偽情報の拡散に大きな役割を果たした例は他にも複数ある。例えば政治評論家でコメンテーターのディネシュ・デスーザは、デパペが下着姿だったことについてのツイートを4回も投稿した。

その結果、KTVUが記事を訂正してから5日、容疑者は政治的な動機でペロシ宅を襲撃したという自白を検察が発表してから2日経っても、偽情報はソーシャルメディアを飛び交い続けた。これはインフルエンサーたちが拡散に関わった場合の偽情報の持久力を物語る。

また記事訂正の限界も露呈した。偽情報を拡散して混乱を引き起こしたい人々からは訂正など全く無視されてしまうのだ。

「誤解」に便乗した悪意ある人々

一方、ペロシの自宅内部にもう1人別の人物がいたという怪情報の出所は報道機関ではなかった。これは警察の公式声明が誤解されて広まったもので、陰謀説を広めたい人々に利用されてしまったのだ。ここからは、偽情報を流す人々が使う常套手段が見えてくる。彼らは自分たちの主張の裏付けとして利用できる時だけ、当局の発表を恣意的に引用するのだ。

邸内にいたというもう1人の人物に関する偽情報の出所は、10月28日にサンフランシスコ市警のビル・スコット本部長が開いた記者会見だ。「警官が今朝、(ペロシの)自宅に到着し、表玄関のドアをノックした際、ドアは内側にいた誰かによって開けられていた」とスコットは述べた。この発言を「事件当時、誰かは分からないがもう1人の人物が家の中にいた」という意味だと多くの人が誤解した。

政治ニュースサイトのポリティコとNBC ニュースも、家の中にいた未知の人物に関して不正確な情報を流してしまった。すると、普段は主流メディアを軽視している陰謀論者は、すかさずその部分を利用した。

ポリティコが10月28日、「警官が家に到着し、玄関のドアをノックして、未知の人物に室内に入れてもらった」と書いた部分は、少なくとも50件の虚偽報道やソーシャル・メディアの投稿に引用されていることがニューズガードの調査で判明した。(ポリティコは直ちに、「警察が到着したとき、ペロシ家の中には(被害者と容疑者の)2人しかいなかった」と記事を訂正した)。

同様に10月30日に放送されたNBCの報道番組ミート・ザ・プレスも、「あの家に警官が呼ばれたとき、家の中に第三者がいて、ドアを開けてくれた」と誤報を流した。担当記者はその後ツイッターで報道を訂正したが、11月3日現在、NBCのウェブサイトに掲載されているこの番組の動画は訂正されていない。

ウソを平気で再生産

一方、極右のニュースサイト「ゲートウェイ・パンディット」は10月29日の記事で、「警官は未知の人物によって室内に入れられたとポリティコが伝えた。この情報はインターネット中に広がっている。世間はこの事件には第三者が関与していたのではないかと考えている」と報じた。

ゲートウェイ・パンディットは、数々の誤報を掲載するフェイクニュースサイトとしてニューズガードが注意を促している札付きのサイトだ。

同サイトはさらに、10月30日の記事で「NBCも襲撃時に第三者がペロシ家にいたことを確認した」と報じた。

ゲートウェイ・パンディットは、ポリティコのような主流派の報道機関を見下し、敵視している。ポリティコの誤報を利用して事実と異なる話を広めるこのサイトのやり方は、誤報の拡散者者がどのような情報源をどのように利用するかを示している。

悪質なフェイクメディアは、主流のニュース機関に対する不信感を露わにする一方で、自分たちの主張を推進するためなら、平気で既存のメディアを利用するのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国防長官、中東の安定強調 イスラエルなどと電話協

ビジネス

中独は共通基盤模索すべき、習主席がショルツ首相に表

ビジネス

中国GDP、第1四半期は前年比5.3%増で予想上回

ワールド

米下院、ウクライナ・イスラエル支援を別個に審議へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 5

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 8

    イスラエル国民、初のイラン直接攻撃に動揺 戦火拡…

  • 9

    甲羅を背負ってるみたい...ロシア軍「カメ型」戦車が…

  • 10

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中