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長生きするには「冬の暖房費ケチる」はNG 脳科学者が指摘する「脳をボケさせない部屋」とは?

2022年11月6日(日)10時20分
西 剛志(脳科学者) *PRESIDENT Onlineからの転載

確かに木の家が多い日本では、冬場はかなり温度は下がりますし、居間はともかく、廊下や脱衣所までは暖房器具がない家も多いでしょう。ただ、脳の老化を防ぎ、血管への負担を減らすためにも、室温対策はぜひ行ってください。

イギリスでは「家の寒さと死亡率の関係」が長年調査されていて、その結果を「住宅の健康・安全性評価システム」として公表しているのですが、その調査によると「16度以下になると、呼吸系疾患に影響が出る」「12度以下になると、高血圧や心血管リスクが高まる」とされています。

「18度以上」、この室温を冬場はぜひ守ってください。

5度の違いで仕事効率が激変する研究結果も

「80歳でも脳が老化しない人がやっていること」部屋の温度が集中力や作業効率に影響することもわかっています。寒かったり、暑かったりすると、やはり効率は落ちるのですね。脳の状態にも大きく影響します。

アメリカの実験でこんなものがあります。フロリダにある保険会社で、主にパソコン作業をしている女性を対象に、室温と作業の効率を調べる実験が行われました。

フロリダは避暑地としても有名ですが、年間通して暖かい場所です。オフィスでは冷房がついていることが多いのですが、室温が20度のときよりも25度のときのほうが、圧倒的に作業効率が上がったそうです。

 タイピングミスが44%減少
 タイプする文字量が150%増加

すごい違いです。室温を変えただけでこんなに違うなら、1年通したらどれだけ差が出ることでしょうか。ちなみに、寒いだけでなく、室温が高くなりすぎるのもNGです。室温が25度を越えると、1度上がるごとにパフォーマンスが2%低下したそうです。

ヘルシンキ工業大学の研究では、オフィスワークをする人を対象にリサーチした結果、22度が最も作業効率が上がる温度だったそうです。

脳がフル稼働する湿度がある

また、湿度も大切です。湿度が35%以下になると乾燥でまばたきの回数が増えるため作業効率が下がったり、70%以上だと疲れを感じやすくなることも指摘されています。

私もいまでは湿度管理ができる空気清浄機をリビングに置いているのですが、部屋が快適だと集中とリラックスの状態が生み出されやすくなるため、同じ時間でも多くの仕事がこなせるようになり、目も疲れにくく仕事がはかどるようになりました。

集中力が落ちてきたという自覚がある人は、部屋の温度と湿度に注意を向けてみてください。また、子どもの勉強効率も同様に上がります。子どもや孫が勉強に集中できる室温や湿度を、ぜひ設定してあげてください。

参考文献
デフォルトモードネットワーク/Raichle ME. "The brain's default mode network" Annu. Rev. Neurosci.2015, Vol.38, p.433-47
趣味が多いほど、認知症になる人が少ない/Ling L., et.al., "Types and number of hobbies and incidence of dementia among older adults: A six-year longitudinal study from the Japan Gerontological Evaluation Study(JAGES)", 日本公衛誌, 2020, Vol.67(11), p.800-810
日本人の生きがいを感じるトップ3/高齢者の生活と意識に関する国際比較調査, 平成27年度(内閣府)
趣味が多いほど、死亡リスクが下がる/Kobayashi T., et.al.,"Prospective Study of Engagement in Leisure Activities and All-Cause Mortality Among Older Japanese Adults", J. Epidemiol., 2022, Vol.32(6), p.245-253
ペットを飼うと孤独感が優位に減る/Banks MR. & Banks WA., "The effects of animal-assisted therapy on loneliness in an elderly population in long-term care facilities", J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci.,2002, Vol.57(7), M428-32
動物に話しかけるとオキシトシンが出る/Marshall-Pescini S., et al., "The Role of Oxytocin in the Dog-Owner Relationship", Animals(Basel), 2019, Vol.9(10), p.792
犬も飼い主の目を見るだけでオキシトシンが出る/Nagasawa M., "Social evolution. Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds", Science, 2015, Vol.348(6232), p.333-6
・ペットといると血圧が下がる/Motooka, M., et.al., "The physical effect of animal assisted therapy with dog, Japan J. Nursing, 2002, Vol.66, p.360-367/Lynch J. 1983 10章 動物を眺め、動物に話しかけることと血圧の関係―生き物と相互作用の生理的結果―キャッチャー、A.M.&ベック、A.M. 編コンパニオン・アニマル研究会訳1991 『コンパニオン・アニマル』誠信書房, p.119-130
・ペットを飼うと認知機能の低下スピードが下がる/"Companion Animals and Cognitive Health; A Population-Based Study-Do Pets Have a Positive Effect on Your Brain Health? Study Shows Long-Term Pet Ownership Linked to Slower Decline in Cognition Over Time", American Academy of Neurology 74th Meeting Press Release 2022, Feb.23,
犬を飼うと介護や亡くなるリスクが半減(ネコは効果がなかった)/Taniguchi Y., "Evidence that dog ownership protects against the onset of disability in an older community-dwelling Japanese population", PLoS One, 2022, Feb 23, Vol.17(2), e0263791
犬を世話していることが認知症のリスク低下する行動と関連/Opdebeeck C., et al., "What Are the Benefits of Pet Ownership and Care Among People With Mild-to-Moderate Dementia? Findings From the IDEAL programme", J. Appl. Gerontol., 2021, Vol.40(11), p.1559-1567
犬を連れていると電話番号を教えてもらえる/Guequen N. & Serge C., "Domestic Dogs as Facilitators in Social Interaction: An Evaluation of Helping and Courtship Behaviors", Anth. A Multidis. J. Inter. People & Animals, 2014, Vol.21(4)
犬を飼っている一人暮らしの人は死亡リスクが33%低下/Mubanga M., et al., "Dog ownership and the risk of cardiovascular disease and death-a nationwide cohort study", Sci. Rep., 2017, Vol.7(1), 15821
部屋が寒いと血圧が上がる/Umishio, W., et.al., "Cross-Sectional Analysis of the Relationship Between"

西 剛志(にし・たけゆき)

脳科学者
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。博士号を取得後、知的財産研究所を経て、特許庁入庁。大学院非常勤講師を兼任しながら、遺伝子や脳内物質など脳科学分野で最先端の仕事を手がける。2008年に企業や個人のパフォーマンスアップを支援する会社を設立。著作に『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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