最新記事

サイエンス

GPSが機能しなくとも位置を把握できる? 量子慣性センサーが研究中

2022年11月4日(金)19時30分
青葉やまと

「量子慣性センサー」の研究を進める米サンディア国立研究所

<GPS信号の受信不良や、信号のジャミングにも強いナビゲーション装置。ボックスに閉じ込めた量子の動きを観測することで、車や航空機の移動量を計測する>

スマホでの経路検索から兵器の誘導まで、GPSはさまざまなシーンで使われるようになった。

しかし、まだまだ万能とは限らない。周囲の環境によっては信号が受信しにくかったり、意図的な電波妨害を受けたりするおそれがあるためだ。

そこで、GPSが機能しなくなった場合のバックアップ手段として、GPS信号に頼らず正確な位置追跡が可能な「量子慣性センサー(quantum inertial sensor)」と呼ばれる技術が注目されている。箱に閉じ込めた量子の動きを観測することで、箱自体が移動した方向がわかるという原理だ。

まだ研究段階の技術ではあるものの、将来的に実用化される可能性は高い。たとえば車を運転したり飛行機を操縦したりする際、GPS信号が失われても現在地と移動の軌跡を把握し続け、安全に移動を続けることが可能になるかもしれない。

科学ニュースメディアのサイテック・デイリーは、小型化に成功すれば「革命的な車載ナビゲーション支援装置となる可能性がある」と報じている。

アボカドサイズの中核装置

ジオ・ウィークスは、サイテック・デイリーは米エネルギー省が管轄するサンディア国立研究所での研究を取り上げている。中核となるのは「アボカドサイズの真空容器」で、そこから真空ポンプやルビジウム原子の供給装置などにつながるパイプが伸びている。真空容器に量子を封入し、その動きをレーザーで観測するという。

量子慣性センサーの原理としては、慣性を利用して移動量を把握する。慣性とは、ものに力を加えない限り、その物体が現状の運動状態を保とうとする性質のことだ。静止している物体は静止し続け、運動中の物体は空気抵抗を受けたり人の手で停止させたりしない限り、その運動を続ける。

そこで量子慣性センサーでは、箱に閉じ込めた量子の運動状態を観測することで、箱自体の動きを逆算するしくみをとっている。量子を真空の箱に入れ、レーザー光線を当てて継続的に観測し続けることで、箱が移動した方向や速度を正確に把握することができる。出発地点が判明していれば、移動内容を加算することで現在地がわかるというわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪就業者数、8月は5400人減に反転 失業率4.2

ビジネス

イーライリリー経口肥満症薬、ノボ競合薬との比較試験

ワールド

トランプ氏、反ファシスト運動「アンティファ」をテロ

ビジネス

機械受注7月は4.6%減、2カ月ぶりマイナス 基調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中