最新記事

ロシア

予備役動員でプーチンが反故にした「戦争の条件」

Putin's Speech Abandons Years-Long Political Strategy

2022年9月22日(木)19時48分
ニック・レイノルズ

ロシア軍の指導層は、招集されるのは予備役30万人程度にすぎないと述べている。しかし米シンクタンク・戦争研究所の推定ではロシアの徴兵対象者はざっと200万人に上り、理屈の上では今度の大統領令でその全員が動員できることになる。ただし、彼らの中には本格的な軍事訓練を受けた者や実戦経験がある者はほとんどいない。

ロシアでは徴兵で常時最大10万人の男性が1年間の兵役に就いているが、職業軍人を目指す者はごくわずかだ。西側の報道によれば、ウクライナ侵攻後ロシアは新兵募集を大々的に行なっているものの、結果は振るわず、やむなく病気や負傷のため野戦病院などで治療中の兵士を再び前線に送り出しているという。

軍事作戦は国民に影響を与えないように行うこと──それが「就任初期に打ち出した、プーチンの元々の政治哲学の柱の1つだった」と、ロシア政府寄りの政治アナリスト、セルゲイ・マルコフはこの夏ニューヨーク・タイムズに語った。「(ウクライナに対する)特別軍事作戦も、理想的には国民に気づかれないように行うべきで、国民生活にほとんど影響を与えないはずだった」

だが現実はそう甘くなかった。

予備役の国外脱出を防ぐ?

プーチンのテレビ演説後まもなく、ロシアから国外に向かう多くの航空便が運航中止になった。オランダの首都アムステルダムに拠点を置くロシアの独立系オンラインメディア、モスクワ・タイムズの21日の報道によれば、徴兵対象者の国外脱出を防ぐための措置ではないかと噂されているという。さらに、当局の厳しい弾圧にもかかわらず、はロシア各地で大統領令に抗議する集会が行われた。

「プーチンのために死ぬ必要はない」と、ロシアの反戦組織「ビスナ青年民主運動」は21日に声明を出した。「君は君を愛する人々のためにロシアで必要とされている。当局にとっては、君はただの使い捨ての兵士にすぎない。(招集に応じれば)何の大義も目的もなしに、無駄死にするだけだ」

ロシアの人権派調査機関・OVD-infoによると、21日夕方までに反戦を訴えて逮捕された市民が全土で1200人近く確認されたという。抗議運動の広がりに伴い、今後はるかに多くの逮捕者が出るとみられる。

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ基調指標、10月の刈り込み平均値は前年比2

ワールド

米民主党上院議員、核実験を再開しないようトランプ氏

ビジネス

ノボノルディスクの次世代肥満症薬、中間試験で良好な

ワールド

トランプ氏、オバマケア補助金延長に反対も「何らかの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 8
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中