最新記事

東南アジア

ASEAN、ミャンマー問題で重大局面 マレーシア外相「反軍政組織を取り込むべき」

2022年9月20日(火)18時30分
大塚智彦

実質的効果のない「5項目合意」

ASEANはミャンマーのクーデター直後から戦闘停止やクーデター直後に身柄を拘束されたノーベル平和賞受賞者でそれまでの民主政府の実質的指導者だったアウン・サン・スー・チー最高顧問兼外相やウィン・ミン大統領らの釈放を求めて動きを見せた。

当初はルトノ・マルスディ外相をミャンマーに派遣してミン・アウン・フライン国軍司令官との交渉に乗り出し、2021年4月にはジャカルタでASEAN緊急首脳会議を開催、ミン・アウン・フライン国軍司令官との面談による協議を実現させるなどインドネシアのジョコ・ウィドド大統領が主導権を発揮した。

この緊急首脳会では各国首脳からスー・チー氏の釈放を求めたがミン・アウン・フライン国軍司令官は拒否した。

その代わり議長声明という形で「5項目の合意」にミン・アウン・フライン国軍司令官ら全ての参加首脳らが合意に達したのだった。

その「5項目の合意」は①武力行使の即時停止②関係者全員で建設的な話し合いを行う③ASEAN特使の受け入れ④人道支援の受け入れ⑤関係者全員とASEAN特使の面会、となっており、以後この合意がASEANとミャンマー軍政との協議の基礎となってきた。

しかし軍政は人道支援の受け入れ、ASEAN特使の受け入れには柔軟な姿勢をみせるものの「武力行使停止」は「民主派勢力側が攻撃してきており治安を攪乱している」と反論。「関係者全員との面会」は「刑事事件の被告であり、公判中の被告との面会を認める国などない」としてスー・チー氏らとの面会を拒絶する姿勢を一貫してとっている。

このためASEANとの交渉は難航というか、実質的には行き詰まりの状況となっているのが現実だ。

当初主導権を握っていたインドネシアのジョコ・ウィドド大統領は11月にバリ島で開催予定のG20首脳会議で議長国ホストとして会議を成功させることに全力を傾注しており、これもマレーシアが業を煮やした一因とみられている。

またサイフディン外相は7月に内外の反対を押し切って軍政が民主活動家の政治犯4人に対する死刑を執行したことがASEANとして軍政に強硬姿勢を示す契機の一つになったことも明らかにした。

11月までに各国で協議を要求

ASEANは11月に首脳会議を予定している。サイフディン外相は「今日から11月までの間に『5項目合意』がミャンマーとの交渉に有効なのかどうか、11月には厳しい問いと答えが求められる。もし有効でないとなると次に何が必要になるかを協議する必要がある」と述べた。

さらにASEAN各国に対して「11月の会議で次の方針を協議するのではなく、今日から11月までの間に各国が話し合い、11月の会議でコンセンサスを得るようにしなければならない」との考えを示した。

こうしたマレーシアの動きはNUGはじめミャンマーの反軍政組織からは歓迎されておいるが、その一方でNUGを非合法組織と位置付けて地下にもぐったり国外で活動したりして情報発信を続けるメンバーの発見、摘発に血眼を挙げている軍政からは激しい反発が予想されている。

ASEAN首脳会議には軍政代表は出席を拒否される見込みで、ミャンマー抜きの会議でどこまでASEANがまとまって厳しい姿勢を軍政に突き付けるか、地域の連合体としてその手腕が試されることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

根強いインフレ、金融安定への主要リスク=FRB半期

ビジネス

英インフレ、今後3年間で目標2%に向け推移=ラムス

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック下落、ネットフリッ

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中