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ミャンマー軍政、フェイスブックを制限 自前のSNS設立などで情報戦対策へ

2022年8月23日(火)17時48分
大塚智彦

自前のSNSを設ける方針

そのうえで同報道官は今後Facebookに代わる軍政自前のSNSを創設する方針を示した。しかしいつどのような形で創設するのか詳細には言及せず、早期の実現は難しいとの見方も出ている。

軍政はクーデター以降、インターネットや携帯電話を頻繁に遮断、制限してきた。特に武装市民組織「国民防衛隊(PDF)」や少数民族武装勢力と軍による激しい戦闘が繰り広げられている地域や地方でこうした通信網の妨害を行って反軍勢力の情報交換や連絡を遮断してきた。

さらにFacebookやインスタグラムなどのSNSの監視も強化して、反軍政活動の動画や写真、コメントをアップした人物を特定、電子情報法違反や扇動罪などで逮捕している。

加えて軍政はSNSに接続するために必要な携帯電話などのSIMカードの税金も値上げして市民の購入を難しくするという苦肉の策も講じており、なんとかしてSNSにあふれる反軍政の情報発信を抑え込もうとしている。

情報戦で劣勢の軍の焦り

中心都市ヤンゴンではインターネット接続がしばしば遮断されるが、これが軍政による意図的な妨害の一環なのか、単なる接続会社などの技術的問題なのか判然としない、とヤンゴン在住の日本人は話す。

独立系メディアもインターネット上で軍による無抵抗、無実、非武装の一般市民の拷問や虐殺の惨い写真や映像で実態を暴露するために積極的に情報をアップしている。

さらにドローンを使った軍への攻撃の様子もアップして攻勢をアピールするなど、インターネット上の「情報戦」は民主派が圧倒しているのが実態だ。

このように反軍政の民主派による抵抗運動には携帯電話とインターネットが必要不可欠となっており、今回の措置は、その制限や遮断に本格的に軍政側が乗り出そうとしていることを示している。クーデターから1年半を経過しても国内の治安安定達成には程遠い状況で、各地で軍とPDFや少数民族武装勢力による戦闘が毎日のように続いていることに対するミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍幹部の焦燥感が表れているのではないかとの見方が有力だ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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