最新記事

東南アジア

タイ憲法裁がプラユット首相の職務停止 任期の解釈めぐり対立、政変や王室批判再燃の可能性も

2022年8月30日(火)19時30分
大塚智彦
タイのプラユット首相

タイの憲法裁判所はプラユット首相(写真)の任期見直しを求めた野党側の請願を審理することを決定し、首相の職務を停止した。Athit Perawongmetha - REUTERS

<2014年以来首相の座にいる男が停職に。何が起きた?>

タイのプラユット首相が憲法裁判所から首相の職務一時停止命令を受けて首相職を辞し、やはり軍出身の副首相プラウィット氏が首相代行となった。

これは首相の任期は「最大で8年間」とするタイ憲法の規定を巡ってどの時点をプラユット首相の任期の起算点とするかで、政権・与党側と野党や反プラユットを掲げる市民団体との間で意見が分かれていたことが原因である。

野党などは首相任期の任期満了時期の判断を憲法裁に仰ぐ請願書を提出。これを憲法裁が受理したため「首相職の一時停止」を命令することになった。首相の職務停止には憲法裁の裁判官9人中5人が賛成した。

憲法裁は今後1〜2カ月かけて審理を行った後に判断を下したいとしている。

タイは2022年11月に「アジア太平洋経済協力会議(APEC)」首脳会議を開催予定で、プラユット首相は議長として会議を成功に導き政権基盤をさらに強化することを狙っていた。

今回の憲法裁の命令に関しては、2014年5月の軍事クーデターで政権を追われ現在海外亡命中のインラック前首相とその兄であるタクシン元首相らの野党勢力は「プラユット政権を終わらせる好機」と捉えて今後反政府活動を強化する可能性が出ている。

プラユット首相は国防相職には留まる

8月24日に憲法裁の「首相職の一時停止命令」を受けたプラユット首相は、憲法裁の判断を尊重するとして首相職を一時的に辞したものの、兼務している国防相の職務は続行する方針を明らかにした。

野党側は首相の任期8年の起算点を2014年8月24日、つまり当時のプラユット陸軍司令官がクーデターでインラック政権を倒し暫定首相に就任した日から計算して「任期満了」と主張しているのだ。

これに対し政権側や与党は2019年6月にそれまで暫定首相だったプラユット氏が下院総選挙での与党勝利を経て正式に首相に就任した時を起算点にしており、任期は2027年までと主張している。

またプラユット首相が2014年のクーデターで2007年憲法を廃止して「首相任期8年」を定めた新憲法が施行された2017年4月7日を起算点とする説も与党関係者から出ており、そうなるとプラユット首相の任期は2025年までになり、いずれも任期はまだ満了していないとの主張の根拠となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マスク氏が訪中、テスラ自動運転機能導入へ当局者と協

ワールド

ハマス代表団、停戦協議でカイロへ 米・イスラエル首

ワールド

バイデン氏「6歳児と戦っている」、大統領選巡りトラ

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中