最新記事

日韓関係

韓国財界が日韓通貨スワップ再開を求めるわけ

2022年7月13日(水)15時44分
佐々木和義

韓国は慢性的な日本円不足を抱えている

通貨スワップは自国通貨を相手国の中央銀行に預けて外貨を借りる協定で、借り受けた外貨を市中に流通させて決済不能になりかねない事態を防ぐほか、為替介入によって通貨の安定に利用されることもある。

アジアの貿易取引は、輸出国通貨か米ドル決済が一般的で輸出側が指定する。韓国の貿易収支が黒字なら、輸出先から受け取った米ドルを輸出代金に充当すれば、ドルが不足する可能性は小さい。

日本企業は米ドル払いを指定する例が一部にあるが、日本円を指定する企業が少なくない。韓国にとって日本は最大の貿易赤字国で、韓国の対日貿易は2005年以降、200億ドルを超える赤字を計上してきた。不買運動が吹き荒れた2019年には191億ドルに縮小したが、2020年からふたたび200億ドル台の赤字となっている。韓国は慢性的な日本円不足を抱えているのだ。

日韓通貨スワップは、いざというとき韓国がドルやユーロを取り崩すことなく、円を調達できる手段となる。

原油高、需要萎縮、為替損失に見舞われている韓国企業

財界が日韓通貨スワップを要望するなか、金融界は米韓通貨スワップを望んでいる。米国と韓国は新型コロナウイルスが拡散した2020年3月、時限的な通貨スワップを締結したが、昨年末に終了している。

韓国銀行は6月末の外貨準備高が4382億8000万ドルだったと明らかにした。前月末と比べて94億3000万ドルの減少だ。リーマンショックの2008年11月に117億5000万ドル減少して以来、13年7か月ぶりの大幅な減少で、外貨準備高が史上最高額を記録した昨年10月(4692億700万ドル)から約310億ドル減ったことになる。

急激なドル高ウォン安でドル払いが増えたことに加えて、当局が通貨を安定させるため、市場に介入した影響が大きい。

一般に自国の通貨安は輸出の拡大に貢献する。故・安倍晋三元総理は円安を誘導した。日本製品が価格競争力を高めて輸出が拡大し、多くの外国人観光客が日本を訪れた。

韓国も輸出は過去最高を更新したが、原材料の高騰で輸入額が増え、今年上半期の貿易収支は103億ドルの赤字となった。

大韓航空は原油価格の高騰に加えて、1ドル当たり10ウォン下がると410億ウォンの損失が発生する。航空会社や石油化学など、原油高と需要萎縮、為替損失の三重苦に見舞われている韓国企業は少なくない。

金融界が米韓通貨スワップを求め、財界が日韓通貨スワップを求めるなか、円を買う投資家が増えている。韓国では「100円=1000ウォン」を基準に円が高いと円高ウォン安、ウォンが高いと円安ウォン高と見る傾向がある。100円=970ウォン台の円安が続き、投資家はいずれ円が上がるだろうと期待する。

円が期待ほど上がらなければ、日本旅行で使えば良いと考える投資家が多く、円預金残高が急増している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米上院議員、トランプ政権のベネズエラ船攻撃を批判 

ビジネス

インド、対中輸入規制の緩和検討 一部関税引き下げ=

ビジネス

EXCLUSIVE-SMBC、イエス銀行への出資比

ビジネス

アングル:米地銀株安が日本に波及、利益確定の口実か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中