最新記事

火星

火星に春を告げる、青い噴出物 NASAの探査衛星MROが捉える

2022年7月6日(水)16時16分
青葉やまと

「地表を覆う透明なドライアイスの層に噴気孔が空き、ガスの逃げ道をつくる」...... credit: NASA/JPL-Caltech/UArizona

<ドライアイスの層が溶け、毎年春になると噴出物が巻き上がる>

地面から噴き出す煙は、火星の春の風物詩となっているようだ。NASAは6月27日、火星周回探査機「マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)」が捉えた火星表面の画像を公開した。

写真に収められた黒と青のパターンは、火星で毎年春に起きる噴出現象の証だ。地表の数箇所に孔が空き、色素が扇状に沈着している。孔からの噴出物が風で運ばれ、地表に堆積したものだ。

「火星の春」とは耳慣れないことばだが、火星には四季がある。公転周期が長く、火星の1年は地球の687日に相当することから、地球の約2倍の時間をかけて季節が変化している。撮影が行われた3月、このエリアは春を迎えていた。

NASAは「地表を覆う透明なドライアイスの層に噴気孔が空き、ガスの逃げ道をつくるという、春の活動が観察できます」と解説している。春になると気温の上昇に伴ってドライアイスが昇華し、気体となることで体積が急激に膨張する。層の下部で圧力を増した気体の二酸化炭素が、層を突き破り孔から噴出するという現象だ。

このとき、高く噴出した気体は、地表付近の堆積物を空中に吹き上げる。黒みを帯びた粒子が空中に舞い上がり、火星の風によって運ばれてから付近に扇状に降着する。これがユニークな模様の正体だ。降着物の一部はドライアイス内部に再び染み込み、このとき色は明るいブルーに変化する。

噴出スポットは少なくとも数百ヶ所

カラー画像だけでも数個の噴気孔が捉えられているが、別途公開されている白黒の画像には、200〜300ヶ所の孔が収められている。この画像で確認できるだけでも、非常に多数のスポットからガスが噴出している模様だ。

ひとつのポイントから複数の方向に模様が広がっている箇所は、風向きが変わってから再び孔が開いたことを意味する。噴出が止むとその孔は一時的に閉じるが、再び同じ場所からガスが噴き上げることが多い。

なお、吹き上がる堆積物の由来について、MRO搭載の光学観測機器「HiRISE(ハイライズ)」を運用する米アリゾナ大学の月・惑星研究所は、ドライアイスの層の下に眠っていた物質である可能性が高いと分析している。

地面のひび割れも、季節の変化で発達

今回公開された写真ではまた、地表に刻まれたマスクメロンのような網目模様が目を引く。この独特なパターンも、ドライアイスの層によって生み出されたようだ。

BizarreMarsRegion2.jpg

(NASA/JPL)


火星の土壌は、氷を含んでいる。季節や昼夜の変化によって温度が変わることで氷は収縮・拡大し、これが表土に亀裂を生じる。こうして生じるヒビ自体は単純な形状だが、春の期間にドライアイスが昇華することで、亀裂をさらに侵食する。歪みと細かなひび割れが加わり、より複雑な模様が発達してゆくことになる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中