最新記事

歴史問題

ベルギー名産品チョコレートと植民地支配──現国王の謝罪、今後の役割とは?

RESTITUTION FOR THE CONGO

2022年6月23日(木)17時41分
ハワード・フレンチ(コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授、元ニューヨーク・タイムズのアフリカ特派員)

220628p56_BTC_05.jpg

1900年頃のコンゴ自由国では労働者の腕を切断する罰がまかり通っていた UNIVERSAL HISTORY ARCHIVEーUIG/GETTY IMAGES

今日においてもベルギー国内にはこうした歴史を否定するか、自分たちの国はコンゴに道路や学校や病院を建てたと主張して過去の罪を軽く見せようとする人々がいる。これはもっともらしい主張のようだが、重大な見落としがある。数少ないインフラ建設はベルギー政府の投資ではなく、コンゴ人の強制労働で実施されたこと。さらにベルギー統治下では、ほぼ全てのコンゴ人にとって中等教育ですら高根の花だったことだ。

先頃ベルギーを訪ねた折、私は首都ブリュッセル郊外でコンゴ系ベルギー人の歴史家、マチュー・ザナ・エタンバラとディナーを共にした。彼は私が1990年代に特派員としてコンゴに駐在していた時に初めて知った事実を改めて思い出させてくれた。ベルギーが初めてコンゴの包括的な発展計画を立てたのは、独立のほんの10年ほど前の1949年だったことを。

奪われた文化財の返還はいつ

この歴史は現代にも影を落としている。かつてのベルギー領コンゴ、現在のコンゴ民主共和国は世界で最も貧しく、最も政府が脆弱な国の1つだ。私はアフリカでも特に大きな国々の一部に深刻な貧困や政治不安や紛争が集中している問題を「アフリカの大国危機」と呼んでいるが、ナイジェリアやエチオピア、スーダンと並んでコンゴもそうした大国の1つだ。

これらの国々の1つでもいいから経済的・政治的基盤を強化できれば、その周辺の広大な地域の今後の見通しは劇的に明るくなり、ひいてはアフリカ大陸全体の未来を後押しすることにもつながるだろう。

この問題はベルギーのフィリップ国王(レオポルド2世の甥のひ孫に当たる)が今月、王妃と首相を伴ってコンゴを訪問したことで、改めて報道などで取り上げられるようになった。

ベルギーは近年、コンゴの悲劇に自国が果たした役割についてある程度認めるようになってきてはいる。だが遺憾の意を示しはしても、表現は紋切り型だし内容も曖昧だ。ベルギーがコンゴにおける過去の帝国主義的行動の真実を全て認め、さらには十分な償いをしていると言える状況には到底なっていない。

ベルギーを訪ねた際に私は、ブリュッセル郊外にある王立中央アフリカ博物館を見学した。もともとはベルギーによる植民地支配をたたえる(そしてアフリカ人をおとしめる)ことを目的としており、「人間動物園」が開設されていた時期もある。コンゴの村を再現してそこに永続的にコンゴ人を閉じ込め、見学者向けに「展示」していたのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中