最新記事

歴史問題

ベルギー名産品チョコレートと植民地支配──現国王の謝罪、今後の役割とは?

RESTITUTION FOR THE CONGO

2022年6月23日(木)17時41分
ハワード・フレンチ(コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授、元ニューヨーク・タイムズのアフリカ特派員)
コンゴ

1905年、コンゴでの強制労働によって採取した大量のゴムの山 A.F.R. WOLLASTONーROYAL GEOGRAPHICAL SOCIETY/GETTY IMAGES

<ベルギー・フィリップ国王がコンゴ民主共和国を初訪問し、過去の残虐行為を謝罪した。かつてアフリカ分割に中心的な役割を果たしたベルギーの償いは、いま始まったばかり>

先日夜が明ける頃、西ヨーロッパのとある主要空港に降り立った私は、今更のようにショックを受けた。これまで何度もこの空港を利用してきたが、その朝初めて、コーヒーとチョコレートの広告看板の数々が目に飛び込んできたのだ。

西欧世界では何世紀もの間、タバコや香水、絹と並んで、コーヒーとチョコレートは遠くから運ばれてきた贅沢品であり、富と地位の象徴だった。そして、その贅沢趣味の陰で無数の人々が搾取に苦しんでいた。

私は新著『ボーン・イン・ブラックネス』で、15世紀末に欧州の人々が砂糖やチョコレートに魅せられたことがきっかけで植民地支配が始まったこと、欧州列強は奴隷制度、さらには繁殖や伝播の意の「プロパゲーション」という名の強制労働キャンプを利用して富を蓄え、300年にわたって栄耀栄華を極めたことを詳述した。

植民地における砂糖の生産、またベルギーの国際空港で広告されていたようなチョコレートやコーヒーの生産は莫大な富をもたらした。おかげで欧州諸国は近代に目覚ましい発展を遂げ、その豊かさと影響力において東方世界とは一線を画す文明圏を形成した。

その文明圏こそ、私たちが今「西側」と呼ぶ、西欧と北米(特にアメリカ)から成る「豊かな先進地域」だ。

1820年以前に大西洋を渡って西に運ばれたアフリカ人の数は、アフリカに渡った白人の数の4倍に上る。アフリカ人を鎖につないで船に乗せ、苛酷な無報酬の労働を強いたおかげで、西欧諸国の植民地経営は途方もない利益を生み出した。

もっとも私の旅の目的は、この長い搾取の歴史が始まった場所、つまりポルトガル、スペイン、イギリス、フランスといった国々のあくなき野望を考察することではなかった。むしろ搾取の過程が終わった場所、そう、欧州列強の土地収奪史の最終段階に、その残酷な歴史の中でも最大かつ最長の悲劇に見舞われた地域が抱える問題を見つめることだった。その地域とはアフリカ中部である。

1870年代、当時の欧州では歴史の浅い小国にすぎなかったベルギーがアフリカとその富を収奪する事業に加わろうと精力的に奥地探検を行った。

その頃には白人によるアフリカ人の公然たる奴隷化は恥ずべき行為としてとっくに葬り去られていたが、プロテスタントのオランダから独立したカトリック国ベルギーには特殊な事情があった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

7月企業向けサービス価格、前年比2.9%上昇 前月

ワールド

米政権、EUデジタルサービス法関係当局者に制裁検討

ワールド

米商務省、前政権の半導体研究資金最大74億ドルを傘

ビジネス

低水準の中立金利、データが継続示唆=NY連銀総裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中