最新記事

インドネシア

コロナ収束で観光客期待する世界遺跡の入場料値上げ? 地元や国民も猛反対で「朝令暮改」に

2022年6月10日(金)20時45分
大塚智彦

ところがその後も批判は止まず、国会からも「当面の延期では不十分」「根本的な見直しが必要」などとの指摘があったという。そして「外国人観光客1人100ドルはいくら何でも高すぎる」「外国人観光客の敬遠、減少の方が観光業への打撃は深刻だ」「事前の詳しい説明もないままの今回の決定は現地を無視した愚策である」など手厳しい反論が観光業者や市民からも相次いで噴出した。

その結果、9日になって「料金値上げの可否は1年後に改めて決めたい」とルフット・パンジャイタン調整相が表明。形のうえでは1年後に延期としたものの値上げは事実上撤回されることになった。

世界的観光地のボロブドゥール遺跡

ボロブドゥール遺跡はインドネシア観光の目玉で、同じく世界的観光地であるバリ島への観光客もボロブドゥール遺跡と近くにあるヒンズー教遺跡「プランバナナン」をセットで訪問するツアーを利用するケースが多い。

また時間的に余裕のある観光客は、ボロブドゥール遺跡敷地内や近郊のジョグジャカルタ、ソロなどの都市から早朝に駆け付け、遺跡上部から幻想的な日の出を見る「ご来光ツアー」も人気が高い。

インドネシア国内からも学生や児童の修学旅行などで訪れる人は多く、地元英字紙「ジャカルタ・ポスト」によるとコロナ禍以前の2019年にボロブドゥール遺跡を訪れた観光客は1日当たり1万3000人に上っていたという。

遺跡は3層9壇の階段状で周囲の壁には仏陀の生涯が石堀で描かれ、頂上部には大きなストゥーパがあり周辺には小さなストゥーパが並ぶ。

シャインドラ王朝時代の西暦780年ごろに建設が始まり792年ごろに完成したといわれている。1992年にユネスコの世界遺産に「ボロブドゥール遺跡群」として登録され、さらに多くの世界からの観光客が訪問するようになった。

再び政府の十八番「朝令暮改」

こうした閣僚や政府による決定がその後覆されたり、撤回、中止、延期されることはよくあり、インドネシア政府の「十八番」とさえ言われている。

コロナ感染防止策の相次ぐ変更、ジャカルタのアニス・バスウェダン州知事による公共交通機関の運行制限の撤回、ジャカルタ~バンドンを結ぶ高速鉄道計画の相次ぐ完工期の延期、カリマンタン島東部への首都移転に関する海外からの投資に関する姿勢の変更など、政府の「朝令暮改」「方針転換」は枚挙にいとまはない。

事前の根回しや協議・説明が不足というより「省略」されて物事が一部の人や部署だけで進められることが多いことが原因とされているが、インドネシア政府は別段そのことを気にしているような気配はほとんど見えず、相変わらず「朝令暮改」が日常茶飯事のような状態が続いており、その状況はもはやある種の「文化」ともいえるかもしれない。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、消費減税「新規国債発行せず、国民会議で検

ビジネス

自民大勝でも「放漫財政にならない」=片山財務相

ワールド

自民単独300議席超、「絶対安定多数」上回る 維新

ワールド

強力なリーダーシップに期待と経団連会長、自民単独過
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 3
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南…
  • 6
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 7
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 8
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中