最新記事

映画

戦争で夫を奪われ瓦礫のなかで出産する女性...現実と不気味に重なる映画への注目

History Keeps Repeating

2022年5月11日(水)18時50分
サム・アダムズ(スレート誌映画担当)

ロシアのウクライナ侵攻で、ロズニツァの作品はちょっとした注目の的になった。アメリカでは今春、最新作のドキュメンタリー映画『ミスター・ランズベルギス』(21年)と『バビ・ヤール・コンテクスト』(同)が公開。さらに、18年の長編映画『ドンバス』も遅まきながら封切られた。

ソ連時代のリトアニアの独立運動を追う4時間超の大作、『ミスター・ランズベルギス』は最高会議議長として独立回復を宣言したビタウタス・ランズベルギスに焦点を当てている。91年1月に首都ビリニュスで起きた「血の日曜日事件」で、侵攻したソ連軍が市民を武力弾圧する映像は現在の出来事と強烈に響き合う。

『バビ・ヤール』はナチス占領時代、ウクライナの首都キーウ(キエフ)のバビ・ヤール峡谷で起きたユダヤ人大虐殺がテーマだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ウクライナの「非ナチ化」を侵攻の口実の1つにしたことを考えると、本作の位置付けはより込み入っている。

戦争で慎重な判断を迫られる芸術家たち

戦争の際、芸術家は慎重な判断を迫られる。ロズニツァはその最たる例だ。ウクライナ侵攻の数日後、ロズニツァはヨーロッパ映画アカデミーを退会し、ロシア映画除外を決めた同会を「パスポートで人を判断するな」と批判。3月中旬には、愛国心が足りないとウクライナ映画アカデミーから除名処分を受けた。

3月初めにミズーリ州で開催されたドキュメンタリー専門のトゥルー/フォルス映画祭では、『ミスター・ランズベルギス』と並んで、2つのロシア映画が上映された。

ベラルーシ出身のルスラン・フェドトウ監督の『私たちはどこへ向かうのか』は全編、モスクワの地下鉄駅構内で撮影された。映画祭の舞台に登場したフェドトウは見るからに動揺した様子で、自分も友人も「私たちの現在の独裁者」に票を投じたことはなく、「この戦争が終わることだけを願っている」と語った。

自作の上映後、フェドトウはさらにうろたえたようだった。プーチンの演説に耳を傾け、第2次大戦の戦勝記念日に行進するロシア人を捉えた作中の映像は今や、さらなる脅威を帯びている。題名にある問いの答えは出たが、それはフェドトウや仲間が望んでいた回答ではなかった。

『私たちはどこへ......』のプロデューサー、ナスティア・コルキアが監督した『GES-2』は、ウクライナ侵攻に抗議するロシア人映画制作者の署名を収めた映像で幕を開けた。モスクワの旧発電所をカルチャー施設に変える再開発プロジェクトを追った本作は、ロシアにおける現代化の動きの縮図のようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今

ワールド

APEC首脳会議、共同宣言採択し閉幕 多国間主義や

ワールド

アングル:歴史的美術品の盗難防げ、「宝石の指紋」を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中