戦争で夫を奪われ瓦礫のなかで出産する女性...現実と不気味に重なる映画への注目
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ロシアのウクライナ侵攻で、ロズニツァの作品はちょっとした注目の的になった。アメリカでは今春、最新作のドキュメンタリー映画『ミスター・ランズベルギス』(21年)と『バビ・ヤール・コンテクスト』(同)が公開。さらに、18年の長編映画『ドンバス』も遅まきながら封切られた。
ソ連時代のリトアニアの独立運動を追う4時間超の大作、『ミスター・ランズベルギス』は最高会議議長として独立回復を宣言したビタウタス・ランズベルギスに焦点を当てている。91年1月に首都ビリニュスで起きた「血の日曜日事件」で、侵攻したソ連軍が市民を武力弾圧する映像は現在の出来事と強烈に響き合う。
『バビ・ヤール』はナチス占領時代、ウクライナの首都キーウ(キエフ)のバビ・ヤール峡谷で起きたユダヤ人大虐殺がテーマだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、ウクライナの「非ナチ化」を侵攻の口実の1つにしたことを考えると、本作の位置付けはより込み入っている。
戦争で慎重な判断を迫られる芸術家たち
戦争の際、芸術家は慎重な判断を迫られる。ロズニツァはその最たる例だ。ウクライナ侵攻の数日後、ロズニツァはヨーロッパ映画アカデミーを退会し、ロシア映画除外を決めた同会を「パスポートで人を判断するな」と批判。3月中旬には、愛国心が足りないとウクライナ映画アカデミーから除名処分を受けた。
3月初めにミズーリ州で開催されたドキュメンタリー専門のトゥルー/フォルス映画祭では、『ミスター・ランズベルギス』と並んで、2つのロシア映画が上映された。
ベラルーシ出身のルスラン・フェドトウ監督の『私たちはどこへ向かうのか』は全編、モスクワの地下鉄駅構内で撮影された。映画祭の舞台に登場したフェドトウは見るからに動揺した様子で、自分も友人も「私たちの現在の独裁者」に票を投じたことはなく、「この戦争が終わることだけを願っている」と語った。
自作の上映後、フェドトウはさらにうろたえたようだった。プーチンの演説に耳を傾け、第2次大戦の戦勝記念日に行進するロシア人を捉えた作中の映像は今や、さらなる脅威を帯びている。題名にある問いの答えは出たが、それはフェドトウや仲間が望んでいた回答ではなかった。
『私たちはどこへ......』のプロデューサー、ナスティア・コルキアが監督した『GES-2』は、ウクライナ侵攻に抗議するロシア人映画制作者の署名を収めた映像で幕を開けた。モスクワの旧発電所をカルチャー施設に変える再開発プロジェクトを追った本作は、ロシアにおける現代化の動きの縮図のようだ。