最新記事

人工妊娠中絶

全米に衝撃、「アメリカ全土で中絶禁止」に道を開く最高裁判決草案の危険なレトリック

Alito’s Radical Message

2022年5月9日(月)16時50分
マーク・ジョセフ・スターン

権限は州にあるという主張に最も接近するのは結論部分だ。

憲法は「各州の市民が中絶を規制・禁止することを禁じていない」と、アリートは述べている。だが、その直前で訴訟対象のミシシッピ州法を分析しているため、州の権利に関するより普遍的な宣言ではなく、ミシシッピ州は中絶を禁止できるという判断として受け取れる。

なぜこれほど慎重になるのか。理由を推測するのは難しくない。

中絶反対活動団体はロー対ウェード判決の破棄を見据え、既に共和党議員と協力して、連邦法による禁止を目指して動いている。

ワシントン・ポスト紙の報道によれば、反対派指導者の要求は妊娠6週以降の中絶の違法化だ。

中絶反対派女性の政治参画推進に取り組む団体、スーザン・B・アンソニー・リストのマージョリー・ダネンフェルザー代表は、2年後の大統領選出馬を目指す共和党の政治家と討議。妊娠6週以降の中絶禁止方針を「選挙戦の最重要項目に据える」ことに、彼らの大半が同意しているという。

連邦議会の共和党議員に、妊娠6週以降の中絶禁止を公約にするよう求める団体は少なくとも10に上る。

連邦議会では、ロー対ウェード判決破棄後の選択肢の検討が始まっている。

現時点で、上院議員19人と下院議員100人以上(全て共和党員)が「受精の瞬間」から法律上の人格を認める法案を共同提案。同法案が成立すれば、妊娠の全段階において中絶が禁じられることになりかねない。

今回の勝利を足掛かりに

より段階的な達成を目指す法案では、保護者の同意なしに未成年者を中絶目的で、州境を越えて移動させる行為を連邦犯罪に定めることが求められている。

共和党議員は最低でも妊娠15週、または20週以降の中絶を連邦法で禁止し、それ以降の中絶を認める州の法律を無効化する決意を固めているようだ。

アリートが、州の権限を唱えるスカリア流アプローチを支持していたら、連邦議会で中絶規制案を成立させるチャンスを妨げることになっていただろう。

だからこそ、中央政府の権限を制限せよという主義を取らず、代わりに民主主義そのものに漠然と訴え掛ける手法を採用したのだ。

だまされてはいけない。保守派の最高裁判事が中絶をめぐる「国レベル」の判断を否定する時代は終わった。

アリートの意見に同意した多数派判事の中で、表向きは最も穏健なブレット・キャバノーでさえ、昨年12月に行われた審理の際、中絶問題は「おそらく連邦議会」が「解決」すべきだとの見解を示している。

中絶は殺人だと心から信じる反対派は、州ごとに是非を決定するという「妥協」では決して満足しない。

草案の判断が、最終的な意見書で大幅に変更されることがなければ、彼らは欲しくてたまらないものを手に入れることになる。今回の勝利を足掛かりに、アメリカ全土での中絶全面禁止を求める戦いを推進することへの暗黙の許可を......。

©2022 The Slate Group

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中