最新記事

アメリカ

全米で治安悪化、アマゾン本社のあるシアトルが「ワースト1位」に

2022年5月2日(月)17時50分
長野弘子(在シアトル)
シアトル

アマゾン本社のあるシアトルが全米で最も犯罪被害額が増えた都市に JOHN MOORE/GETTY IMAGES

<アメリカの治安はそもそもよくないが、実は、ロックダウンやBLM運動を機に荒廃が加速している>

「道で寝ているホームレスを追い払い、汚物を片付けるのが朝の開店前の日課。もう嫌になるよ」と嘆くのは、シアトル中心街にある店の店員だ。

水と緑の都「エメラルドシティ」とうたわれたシアトルの街に、以前の美しい面影は跡形もない。ホームレスがたむろし、汚物やゴミが道端に散乱。彼らが歩行者に付きまとって叫んだり、路上での暴行、銃撃事件が後を絶たず、荒廃の一途をたどっている。

日本に比べ、民間人が3億9000万丁もの銃を所有するアメリカの治安がそもそもよくないことは、広く知られている。どの都市にも観光客は足を踏み入れるべきでない危険な地区が存在すると言われる。

だがコロナ禍以降、シアトルに限らず、都市部の荒廃は一層加速した。

ロックダウン(都市封鎖)による経済的打撃に加え、BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動が吹き荒れ、各地で警察力を制限する動きが広まった。

結果、暴動や略奪、強盗、殺人事件が急増。FBIによると、2020年の他殺による死者数は2万1500人以上で前年から約30%増、1960年代に統計を取り始めて以来最大の増加率を記録した。

2020年に犯罪被害額が増加した都市のワースト3は、シアトル、ニューオーリンズ、シカゴだ。それぞれ前年比42%、40%、29%増となった。

シアトルに本社を構えるアマゾンも独自の警備員を配置しているものの、治安の悪化を理由に今年3月、シアトル中心街にあるオフィス1カ所の一時閉鎖に踏み切った。

こうした事態を重く受け止め、今年1月に就任したブルース・ハレル新市長はホームレスの一掃にさらに強力に取り組んでいるが、根本的な解決には至っていない。

住宅価格やガソリン代、食費も高騰し、アメリカ人の家計は逼迫している。全米で最も豊かな都市の1つであるシアトルでさえ、精神的ストレスを抱え、ホームレスに転落する人が後を絶たない。治安が悪化し、住民や企業は逃げ出し、さらに街の荒廃が進むという悪循環だ。

街の荒廃は人々のすさんだ心を反映している。この終わりのない戦いに、アメリカはどう立ち向かうのだろうか。

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中