最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナ・ゼレンスキーの演説を支える「38歳スピーチライター」のスゴさ

2022年5月14日(土)16時10分
大門小百合(だいもん・さゆり) *PRESIDENT Onlineからの転載

喜劇役者から政治家に転じた44歳の大統領と、38歳のスピーチライター。大統領の演説は、相手国の歴史や国民感情を調べ上げたうえで書かれ、老練ささえ感じられるほどに練られている。とても、これほど若いコンビから生み出されているとは思えないほどだ。

ロシア語でロシア人に語り掛けた大統領

最初に私がゼレンスキー大統領の演説に衝撃を受けたのは2月24日、侵攻前夜に、ロシア語でロシアの国民に向けて語りかけた言葉だった。


「あなた方の中には、ウクライナに行ったことのある人、ウクライナに親戚がいる人も多いでしょう。ウクライナの大学で学び、ウクライナの人々と親交がある方もいます。私たちの国民性、原則や大切にしていることもご存じでしょう。だから、どうか自分自身の声に耳を傾けてください。理性の声に。常識に。そして私たちの声に」
「私たちは異なる存在です。しかしそれは、私たちが敵同士になる理由にはならないのです」

目前にせまりつつある戦争を回避しようと、必死にロシアの人々に語りかける様子は、心に強く訴えるものだった。

ゼレンスキー大統領の母語はロシア語なので、ロシア語の演説は難しくはないかもしれない。だが、それにしてもこの演説は、とても綿密に組み立てられていると、カナダ人でパブリックスピーキングの専門家であるジョン・ジマー(John Zimmer)氏は分析する。

ジマー氏はブログの中で、演説にちりばめられた「あなた(あなた方)」と「私たち」という言葉は、聴衆との距離を縮める上で最も効果的だと指摘する。

この演説には、ほかにもさまざまな手法が使われている。例えば、以下の部分だ。

「私たちは、戦争など望んでいません。冷たいものも(冷戦)、熱いものも(熱い戦争:武力戦争)、ハイブリッドなものも」と、3つの言葉を並べて聴衆に訴えかける。

さらに、質問と答えを繰り返す手法も取り入れている。

「(戦争で)一番苦しむのは誰なのでしょうか? 人々です。こんな戦争を誰よりも望まないのは誰なのでしょうか? 人々です。これを止められるのは誰なのでしょう? それは人々なのです」といった具合だ。

また、最後に質問を投げかけて演説を終えると、聴衆に強く訴えることができる。演説の最後は、この質問で締めくくった。

「ロシア人は戦争を望んでいるのでしょうか? 私はこの問いにぜひ答えたい。しかし、その答えは、ロシア連邦の国民であるあなた方にかかっているのです」

アメリカ人に響く「民主主義」「独立」「自由」

ゼレンスキー大統領の演説には、「最も相手国の人々の心の琴線に触れる言葉は何か」が徹底的に研究され、盛り込まれている。

前述のハーバード大教授は、「演説に、聴き手が大切にしている『価値観』や『信条』が盛り込まれると、共感を呼び、心に響く」と言っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ453ドル安 原油高と雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中