最新記事

フランス

「蜜月」なき船出 再選されたマクロンに立ちはだかる課題

2022年4月25日(月)19時09分

既に前途多難の兆しが出ている。マクロン氏は選挙戦で年金制度改革に怒った有権者から繰り返し批判を受け、定年退職年齢の上限を64歳をとする可能性を認めざるを得なくなった。

国内最大の労組の1つである共産党系CGTのフィリップ・マルティネス委員長は既に、マクロン氏には政権発足後に批判が抑制的になりがちな最初の100日を指す「ハネムーン(蜜月)期間」はなく、政策の完全な見直しがなければデモが起こる可能性があると警告した。

トップダウン式政治はもはや通用せず?

選挙直後に対処すべきもう一つの危うい課題がエネルギー価格の高騰だ。

マクロン政権は選挙が終わるまで電気料金に上限を定め、ガソリン価格に割引制度を導入している。選挙期間中、必要な限り有権者を守ると述べたが、期限は示さなかった。

はっきりしているのは、コストのかかるこうした措置をいつかは解除しなければならないということだ。一方、議員の間からは、有権者は既にウクライナ産のヒマワリ油やコメ、パンなど、さまざまな主要食材の価格高騰に不満を抱いているとの声が上がっている。

2018年にはガソリン価格高騰をきっかけに、マクロン政権に抗議する「黄色いベスト運動」が発生。1968年の学生運動以来、最悪の社会不安となり、パリや各地の環状交差点が数カ月にわたり混乱した。

つまりマクロン氏が火薬庫の再爆発を望まないなら慎重な行動が欠かせない。

1期目には傲慢で、人を見下すような失言が少なくなかった。悪感情を抱いている国民は多く、選挙戦では「第五共和制で最悪の大統領」との言葉も浴びせられた。

政治的に近い勢力はマクロン氏に対して、もっと議員や労組、市民社会と意思の疎通を図り、マクロン氏自身が高らかに「ジュピタリアン(全知全能の神のような方法)」と表現した1期目のトップダウン式政治スタイルから脱却する必要があると警鐘を鳴らしている。

パトリック・ビニャル議員は「マクロン氏は『高所からすべてを決めることはできない。企業のトップではない』というメッセージを受け取った。交渉や協議という考え方を受け入れる必要がある」と述べた。

(Michel Rose記者)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中